書籍「僕が夫に出会うまで」
2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。
幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京、
文春オンラインでは中学時代まで(#1〜#9)と、
自分がゲイであることを認めた瞬間から,
物語の続きは、ぜひ書籍でお楽しみください。
それからのぼくは、全くもって、「大丈夫」ではなかった。先生のおかげで、自分は「ふつう」ではない人間なのだと、気づかされてしまったからには、どうすればふつうの男の子っぽくできるかを、四六時中考えていなければならなかった。
歩く時も、座る時も、喋る時も、常に周りの目を気にして「ふつうの男の子」を装った。ただ、好きなアニメや、興味のあるものだけは、変えることが、どうしても出来なかった。
ぼくが大好きな『美少女戦士セーラームーン』というアニメは、3つ下の妹がいたのでなんとか一緒に観ることができた。だけど、女の子の観るアニメだから、ぼくは、セーラームーンが大好きなことを誰にも話さなかった。ぼくが1人でセーラームーンを観ていると、父や母が少し悲しそうな目をするのを知っていたからだ。
だけど、ぼくにはどうしても、なんとしてでも、欲しいものがあった。それは、セーラームーンが敵を攻撃するときに振りまわす、ステッキのおもちゃだ。
そんなものを欲しいと言ったら何を言われるか、どう思われてしまうのか、と考えると恐ろしく、その想いは、小さな胸にしまい込んでいた。
しかしぼくには、セーラームーンのおもちゃを手に入れるための、とっておきの秘策があったのだ!
年に1回のチャンスに全エネルギーをかけた
もうすぐクリスマス。クリスマスにはサンタクロースという親切なおじいさんがやって来て、僕が1番欲しいものをプレゼントしてくれる。年に1回のチャンスに、ぼくは全エネルギーをかけていた。
12月に入ると、ぼくの家にも、小さなクリスマスツリーが飾られた。ぼくは毎朝、目を覚ますと、クリスマスツリーの前に正座をして、手を合わせ、祈りを捧げた。
「セーラームーンのおもちゃが欲しいです、セーラームーンのおもちゃをください、サンタさん、お願いします!」
もちろん言葉にはせず、心の中で、強く念じた。この念が、クリスマスツリーを通じて、サンタクロースへ届くと信じていた。