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連載僕が夫に出会うまで

セーラームーン好きの僕は「ぶりっ子だから」いじめられたのか

僕が夫に出会うまで #3

2019/02/14
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箱の中から出てきたのは

 包装紙に包まれていたものは、トランシーバーセットの箱だった。ぼくは感激した。ぼくが、父や母に「内緒」でセーラームーンのおもちゃを欲しがっていることを、サンタクロースはわかっていたに違いない。セーラームーンの箱があればバレてしまうから、あえて箱を変えてくれたのだ。なんて物分かりの良いおじいさんなのかと思ったのだ。

 だが、その箱の中から出てきたのは、紛れも無く「トランシーバーのセット」だった。

 目を疑った。声も出ず、動けなかった。思考回路はショート寸前。心の中で、何か大切なものが、音を立てて崩れていくのを、傍観するしかなかった。

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 ぼくは、トランシーバーを手に取り、それを見つめた。そして思った、なんとも男らしいプレゼントだと。徐々に思考回路が復旧するにつれ、サンタクロースの事情というものを悟ったぼくは、心の中で崩れたばかりの何かを、きっぱりと捨てさることにした。そして、トランシーバーを握りしめ、母の元へと歩き出した。できる限りの笑顔で――。

欲しかったセーラームーンのおもちゃは

「良かったね! けど、サンタさん、間違えてなかった?」

 気まずそうな笑顔をみせた母に、ぼくは全身全霊の笑顔で言った。

「ちょっと間違えていたけど、こうゆうのが欲しかったんだ。ありがとう!」

 母は、少しホッとしたように「お母さんじゃなくて、お礼はサンタさんに言いなさい」と言った。「あ、そうか」と思い、僕はおもむろにクリスマスツリーの前に正座した。なるべく、いつものようにさりげなく。そして、クリスマスツリーに手を合わせてみたが、なんだか、ばかばかしかった。

 

 その時ちょうど、3つ下の妹が起きてきた。妹は起きて早速プレゼントを開けたみたいだ。妹の手に握られていたのは、サンタクロースから届いたばかりの、セーラームーンのおもちゃだ。ぼくが、まさに、欲しかったそれが、妹に届いていたのだ。

 それを、妹に貸してもらえることはなかった。ぼくにとって一生忘れられないクリスマスとなったのは言うまでもない。