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こういう気合いの入った子は、好きなんです(笑)

――冨田三段はそれで名人戦の記録を取りましたからね。対局者もビックリしたんじゃないでしょうか(笑)。

「いやぁ……僕もこういう気合いの入った子は、好きなんです(笑)。

 護摩行では『左2番』っていう場所があります。そこが火に一番当たるところで。『どこでやりますか?』って聞かれるんですけど、僕も若かったので『一番キツイところでお願いします!』『じゃあ左2番ね』って」

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――はぁぁー……。

「でも住職は火の上でやるので、もっと熱いんですけど(笑)」

――うわぁ……。

「で、そこで2時間くらい真言を唱えるんですが、声を出してないと意識が飛びそうになるんです。冨田くんも一番キツイところでやったと言っていたので、きっと『左2番』だったのでしょう」

――久保先生の熱さが、若手の心にも火を点けたんですね!

護摩行をした富田三段の手 ©白鳥士郎

憧れは『北斗の拳』のサウザー

――熱いハートを持つ久保先生ですが、『キン肉マン』『キャプテン翼』『北斗の拳』といった往年の少年漫画がお好きだと。

「そうですね! 『ジャンプ』はもう、毎週読んでいました!」

――そんな久保先生はかつて、居飛車を北斗神拳に、振り飛車を南斗聖拳にたとえられたことがあります。では南斗のキャラクターでご自身をたとえるなら、誰でしょう?

「僕はやっぱり、サウザーだと」

――聖帝様! それはなぜでしょう? 南斗六聖拳の中でも最強とされているから?

「サウザーは心臓の位置が普通と逆で、だから秘孔も全部逆になって北斗神拳が効かないじゃないですか」

――そうですね。それが、どう……?

「僕も振り飛車党で、居飛車党とは心臓(飛車)の位置が逆だから」(スッ、と飛車を振る手つきをする)

――なぁるほど~! 居飛車がどれだけ秘孔を突いても倒れない! 久保先生の粘りの秘密はそこにあったんですね(笑)。

「それで、時の居飛車の第一人者も恐れるという。だからサウザーに憧れています(笑)」

©文藝春秋

居飛車は粘れないんです

――さばきのアーティストの裏の顔は「粘りのアーティスト」だといわれています。どういう状況で裏表が切り替わるのでしょう?

「先を読んで、自分のほうが分が悪い将棋だなと思った時に、スイッチを変えるんですけど。

『これは普通に斬り合っても一手勝てないだろう』と、そういう時に、局面は悪いという認識を持ちつつ、いかに倒れないようにするかです」

――倒れない、という感覚なんですね。

「そうですね。ちょっと削られてはいるんですが、倒れなければまだ立っていられるので」

――永瀬先生がメチャメチャ粘るじゃないですか。あれは振り飛車党だったことと関係があるんでしょうか?

「それは絶対あると思うんですよ! 僕が粘るといわれているのは、実は振り飛車党だからというのもあって。

 居飛車は縦の将棋になるので、粘れないんです。最終盤で歩を使った攻めをされてしまうと、囲いの金を歩で取られてしまい、すぐに寄ってしまいます。

 でも振り飛車は横からの将棋なので、歩で攻められることは少ないんです。金や銀で攻められても、取ってそれを打ち返せばいいので。だから粘れるのは、当然っちゃあ当然なんです。実は。

 だから僕がいつも言ってるのは……一番粘りがすごいのは、深浦さんなんです」