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ソフトには心がないから……

――久保先生は、普段の研究で将棋ソフトを使用されることはあるのですか?

「研究ではほとんど使っていません。たまに対局するとか、自分の指した将棋を検討させてみるとか、その程度ですね」

――ソフトは振り飛車をあまり評価していないようですが、そのことについてはどうお考えでしょう?

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「僕の見識が正しいかはわかりませんが、ソフトが自己学習を進める上で、読みの浅い段階では縦の将棋(居飛車)に収束していくと思うんです」

©白鳥士郎

――最初は居飛車が勝ちやすいから、ソフトはどんどん居飛車の将棋だけを学習していってしまう。だから振り飛車を評価しないまま強くなってしまう……というのは、開発者の方からも指摘されていますね。

「人間なら、過去を振り返るじゃないですか。でもソフトには心がないから、強くなってから『あれ? 最初の頃にやった振り飛車っていうの、今やってみたらイケるんじゃない?』とは思わないでしょ?

 だからソフトが振り飛車を正しく評価できるようになるのは、まだ少し先だと思っていて。たとえばAIが意識を持ち出したら、振り飛車のことをもっと評価するようになるんじゃないでしょうか」

――コンピュータが「心」を持ったら、ようやく飛車を振れるようになる!

「『最初にやってボコボコにされたあの振り飛車ってやつを、もう一回やってみよう!』となったら、僕は今みたいな評価値は出ないと思うんですよ。

 僕はもう40年くらい振り飛車やってるんですけど、自分の感触でも……『この局面で居飛車が+200? そんなわけないよな』っていう感じなんです」

©文藝春秋

振り飛車を指す「ハニーワッフル」には大注目

――では今後、振り飛車を指すソフトがどんどん強くなっていったとして……AIに育てられた振り飛車党はどんな将棋を指すと予想されますか?

「はー……どうですかねぇ? 今、評価がいいのは角道を止める振り飛車。でももう少し、角交換系の将棋とか、ゴキゲン中飛車もそうですけど、評価が上がるんじゃないでしょうか」

――戦ってみたいですか?

「そうですね! 強い相手と戦うことは、楽しみなので。

 だから僕も、振り飛車を指すソフトには興味を持っていて。HoneyWaffle(ハニーワッフル)っていう……ご存知ですか?」

――振り飛車に特化したソフトですよね! 2017年の世界コンピュータ将棋選手権では7位、2018年は8位。連続して決勝リーグに進出している強豪ソフトの一つです。

「今年はどうだったんですか?」

――残念ながら2次予選で敗退してしまいました……。

「僕はあのソフトに大注目しているんで(笑)」

――そうなんですか!? 久保先生に注目していただいていると知れば、開発者の方もすごくお喜びになると思います!

「振り飛車をやるソフトは、大注目して見てます! 居飛車のソフトは見てないんですけど(笑)」

――居飛車を指すソフトの開発者の方々も、振り飛車の定跡ファイルや評価関数を続々と公開しておられます。やっぱりみなさん将棋ファンですから、振り飛車がお好きなんですよ。久保先生の影響で、振り飛車を指すソフトの開発がブームになるかもしれませんね!

りゅうおうのおしごと! 3 (GA文庫)

白鳥 士郎

SBクリエイティブ

2016年5月13日 発売

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