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日本への不満を鎮めた国王のことば

「大喪の礼」終了後のエピソードがある。新天皇、皇后にあいさつをするため、外国の賓客の長い列ができた。あいさつも短くは終わらないから、賓客は立ったまま長く待たせられることになった。すると列のなかから「日本の仕切りが悪い」と不満の声が出た。この時、ボードワン一世国王が「新天皇、皇后は誠実に対応されている。ここはゆっくり待ちましょう」「皇室の文化をじっくりと鑑賞できるのもこういう時間があるからです」と周りに聞こえるように語った。

 最長老格の同国王の言葉に不満は鎮まった。そして国王は宮中の広間のしつらえや、調度品一つ一つについて、周りの外国の賓客に説明した。皇室との交流の中で学んで知識を深めたのだろう、皇室文化への深い造詣をのぞかせた。「あの時の国王の落ち着いた君主としての風格には、心から尊敬の念を抱きました」と、近くで接遇を受け持った外務省OBは語っている。

ベルギーのフィリップ国王夫妻は2016年に国賓として来日している 宮内庁提供

互いに戦争の“傷”を引き受けて……

 実は、同国王と明仁天皇は似たような境遇にあった。国王の父、レオポルド三世は大戦中、ナチスドイツに無条件降伏し、ドイツの捕虜となった。このことに戦後、国民から批判が起きたのだ。このためレオポルド三世国王は51年に退位し、息子のボードワンに王位を譲った。そして明仁天皇も、昭和天皇が戦争を止められなかったことの重荷を引き受けてきた。同世代で、似たような境遇、そして互いへの敬意が、皇室とベルギー王室の関係を緊密なものにしてきた。

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「即位の礼」の2年後、ボードワン一世国王が心不全で逝去したとき、明仁天皇、美智子皇后は葬儀に参列。14年にファビオラ王妃が亡くなったときは、美智子皇后が参列した。

 今回参列するフィリップ国王はボードワン一世国王の甥で、今上天皇、皇后も国王が皇太子だったときの結婚式(99年)に揃って出席している。皇室とベルギー王室の世代を超えた交流の深さを、同国王の参列は示している。

皇太子時代のフィリップ国王の結婚式(1999年)に出席し、会話を交わされる雅子さま ©getty

日本重視が鮮明な“大国”

 中国の王岐山副主席の出席は、日中関係の改善の脈絡で説明されている。王副主席は共産党政治局常務委員の経験者で、前回の「即位の礼」に出席した呉学謙副首相は党政治局員だった。これから見ても確かに王副主席の方が格上だ。しかし政治関係だけが中国側の判断根拠ではないように思われる。

 中国外務省の耿爽(こうそう)副報道局長は17年12月、明仁天皇の退位日が決まったことに絡み、92年10月の天皇訪中について「中日関係を発展させるために前向きの貢献をされた」と述べた。これは天皇訪中に対する初めてのコメントで、中国政府の公式結論と言えるだろう。これから窺えるのは、両国関係に皇室が果たした役割、さらには「慰霊の旅」に象徴される皇室の平和志向への評価が王副主席の列席を後押ししたのだろう、ということだ。