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「両国のためには出ない方がいいと判断しました」

 その一方で、皇室とオランダ王室は親密な関係にあった。外相を参列させる際、ベアトリックス女王(当時)は明仁天皇、美智子皇后に電話で「私は列席したいが、両国のためには出ない方がいいと判断しました」と伝えた。オランダの反日抗議行動が、日本世論を刺激し、双方の国民感情の悪化に繋がることを懸念したのだ。翌90年の「即位の礼」には自分の名代で現国王のウィレム・アレクサンダー皇太子を参列させたが、やはり女王自身は参列を控えた。

アレクサンダー国王夫妻は国賓としても来日した(2014年) 宮内庁提供

 その後、91年に同女王が国賓で来日し、2000年には明仁天皇、美智子皇后が国賓でオランダを訪問。この中で、両国政府のイニシアチブでさまざまな施策が打ち出され、オランダの対日世論は大きく改善した。幾つかある中から2つ紹介しよう。

オランダ人の元慰安婦に対する「償い事業」

 1つは、オランダの戦争被害者やその家族を日本に招く「平和友好交流計画」だ。この施策は地味ながら、戦争被害者の心を解きほぐす上で大きな効果があった。

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 2つ目は、オランダ人の元慰安婦に対する償い事業だ。インドネシアではオランダ人約200人が日本軍によって慰安婦にされていた。駐オランダ日本大使を務めていた池田維氏は、同国もアジア女性基金の「償い事業」の対象に含めるよう本省に要請し、認められた。 

オランダ国王夫妻との宮中晩餐会(2014年) 宮内庁提供

 最終的に元慰安婦と認定された79人に、「アジア女性基金」から1人当たり年間、約300万円の医療・福祉支援が行われた。元慰安婦問題では韓国の例が専ら取り上げられるが、日蘭の間ではすでに区切りがつけられたことはもっと知られていい。

 これらの施策は00年の両陛下の訪蘭に向けて前向きの雰囲気を醸成し、オランダ世論へのインパクトとなったことは間違いないだろう。ウィレム・アレクサンダー国王の参列はこうしたオランダ世論の大きな変化を物語っている。

ベルギーからはフィリップ国王が参列

 また、ベルギーのフィリップ国王の列席も、皇室との深い交流の証だ。「大喪の礼」と90年の「即位の礼」では同国からいずれもボードワン一世国王とファビオラ王妃が列席した。同国王、王妃夫妻は71年にベルギーを訪問した昭和天皇を手厚くもてなしているほか、明仁天皇、美智子皇后とも交流が長い。日本は長期在位にある同国王を、いずれの式典でも最重要の席に就けた。