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 おそらく、警官隊と戦う勇武派の精鋭部隊や、地下鉄や親中国企業の店舗を襲撃する遊撃部隊、ケガ人の救護部隊や逮捕者の釈放を支援する救対部隊、ロジスティクスを担う物資部隊、Telegram上で個々の警官の個人情報を暴露し続けているサイバー部隊なども類似の形式で運用されているのだろう。事実、Lは「どこも似たような感じではないか」と話していた。

9月末頃からの流行「顔ロード」。親中派議員や習近平の顔を印刷した紙が大量に路上に貼り付けられ、みんなでそれを踏み歩く。ちなみに背後の壁の紙はすべて文宣のビラだ。10月1日、黄大仙駅付近で筆者撮影 ©安田峰俊

 そこで当然の疑問として出るのが、この哨兵・文宣・勇武……といった各部隊は、どうやって相互に連携しているかという問題だ。ここからは推測になってしまうが、たとえば哨兵部隊における総隊と各小隊の関係と同じように、各部隊を統括する「大総隊」のようなコミュニティが作られている可能性は充分にあるのではないだろうか。

デモ隊が「組織はない」と主張し続ける理由

――各部隊の上部に、そういう統括組織Xは存在しないんですか? たとえば、哨兵代表者・文宣代表者・勇武派代表者・救護代表者……といった人たちが、Telegram上で統合参謀本部のようなシークレットコミュニティを作っているのでは?

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L: そんなものはない。今回の運動の特徴は「無大台(組織がない)」だ。必要なときに別の部隊に対して人をやって、連絡し合っているだけだ。

 私がLに尋ねたところ、そんな返事がきた。香港デモが「無大台」であることはデモ関係者が対外的に必ず口にする言葉で、また運動が香港で求心力を集めるための最大の売りなので、Lはこの質問には否定するしかないのだろう。

 2014年の雨傘革命後の5年間で、香港人は既存の政党や学生組織、活動家らをまったく信用しなくなっており、誰かが代表にいるとわかれば対内的に損なのである。

筆者がイメージする香港デモの組織図。統括組織Xの存在が確定すれば、これが潰されることで香港デモは壊滅的なダメージを受けてしまうため、Lの口が重くなる理由も想像できる ©安田峰俊

 だが、哨兵や文宣などの各分野の部隊がこれだけ組織化され、また運動のなかでは相互の組織間の連絡やイデオロギーの統一が必須である以上は、彼らの代表者たちをたばねて決定権を行使する統括組織が存在しないと考えるほうが不自然ではないか。