ビラではたとえ過激な画像が使われることがあっても、主張の内容は大衆ウケのいい穏健なものにとどまる傾向が強い。事実、9月以降のデモ現場では、中国人排斥の主張や破壊・放火が見られる例が多々あるのだが、ビラではヘイトスピーチや破壊行為の扇動を呼びかける文言はほぼ登場しない。一定のクオリティチェックを経ていることを感じさせる。
事実、9月9日付の香港紙『明報』がそれを裏付ける報道をおこなっている。こちらによると、文宣部隊はジャーナリストや編集者・弁護士なども加入する600人規模のグループであり、ビラに誤記や法的に問題がある表現がないかを厳しく精査したうえで公の場に出しているという。『明報』記事をもとにまとめると、ビラの制作過程は以下の通りだ。
(1)クリエイターがビラの初稿を制作
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(2)クリエイターが初稿を文宣Telegramのクローズド・チャンネル内に投稿
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(3)(総隊に相当する文宣チャンネル管理者たちのなかで)デザインの精査、文言の校閲とファクトチェック、弁護士による法的チェックなどの意見出しがなされる
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(4)クリエイターが修正意見を反映して2校を作成、Telegramのクローズド・チャンネルに投稿
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(5)再度の意見出しがなされる
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(6)文宣チャンネル管理者が完成品のビラをTelegramのオープン・チャンネル(公海)、Facebookなどで公開。印刷してレノンウォールへの貼り付けがなされる。
日本のヘタな出版社やネットメディアよりもしっかりしたチェック体制である。香港デモ隊は日本を含めた世界各国の主要紙にデモ支持を訴える意見広告を何度も出しているが、こちらも文宣部隊によってなされている。
では、各部隊を統括する“大組織”の存在は……?
クローズドな上部組織が作戦の決定権を持ち、充分に精査された作戦を下部メンバーに指示したり、デモ隊にとって「正確」な情報を公開チャンネルに流したりする形式は、哨兵部隊も文宣部隊も変わらない。