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連載昭和の35大事件

占領下の日本で大蔵大臣セクハラ事件に「キスの一つや二つ」――批判は被害女性議員に向けられた

とにかく「自己主張する女性」に厳しかった時代

2019/11/17

source : 文藝春秋 増刊号 昭和の35大事件

genre : ニュース, 社会, 歴史, メディア, 政治

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「いささか酒を飲み、加えて日夜の疲労のため気分を悪くした」と説明

 記事の見出しは「泉山さん大トラ 婦人議員にたわむれ雲がくれ」。ここで「大トラ」の名称が登場。1面には早くも「泉山蔵相辞職か 泥酔事件の責任とる」の見出しが躍っている。同日付朝日は1面で「蔵相酔いつぶれる」の見出し。

読売新聞の記事。初めて「大トラ」が登場した

「塚田大蔵政務次官が提案理由の説明を行ったが、野党は『大蔵大臣を出せ』と叫んで一斉に議場から退場したため、審議不能に陥り」と報じた。再開後、野党議員が「大蔵大臣は先刻、院内で泥酔して不謹慎な態度を示していたという」と追及。副総理兼務の林譲治厚生大臣が立ったが、議場騒然として発言できないまま、再度休憩に。その後、林厚相が「いささか酒を飲み、加えて日夜の疲労のため気分を悪くした。自分から代わって陳謝する」と答弁。吉田首相は「遺憾である。調査して善処する」と答えた。

「そういえば、泉山君のアトはどうしようかね?」

 その間、本人はどうしていたか。「政府委員室で暫時休ましたが、トテモいかぬ。やむを得ぬ用件でGHQに行くと称してお堀端を3回もグルグル回って、官邸へも逃げ、自宅にも隠れたが、私があまり怒るので、やむなく国会へ引き返したそうな。それを見て益谷(秀次)君の好意でスグさま国会医務室へ運んで、そこで注射をして、ベッドの上にしばらく横にして休ました」「かくしてものの5時間も夢幻の間に過ごしてしまった」(「トラ大臣になるまで」)。

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 結局、翌朝、首相公邸を訪問。「心から罪を謝して、鄭重にくだんの辞表を差し出した」。吉田首相は「辞表など出す馬鹿があるか」と叱った後、入ってきた林、佐藤の二人を入れて雑談を交わしているうち、「そういえば、泉山君のアトはどうしようかね?」と言ったという。