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連載昭和の35大事件

占領下の日本で大蔵大臣セクハラ事件に「キスの一つや二つ」――批判は被害女性議員に向けられた

とにかく「自己主張する女性」に厳しかった時代

2019/11/17

source : 文藝春秋 増刊号 昭和の35大事件

genre : ニュース, 社会, 歴史, メディア, 政治

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「追加予算成立のお礼に」各会派の委員を招いた恒例の会食で

 さて、問題が起きたのは同年12月13日。この日、追加予算が成立。翌14日にも衆院が解散されることになっていた。まず、「トラ大臣になるまで」の記述を見よう。

 GHQの予算課長に説明しに行った後、「国会へ帰ったのは午後6時すぎである。本会議は休憩中で、閣僚諸君は大臣食堂で珍しくお酒が出て、皆一杯やってはしゃいでいた。コップ一杯でも、勝負がついての祝い酒であった。私も帰るなり、二人分ぐらい引っかけているところへ、秘書官がやってきた。――『大臣、大蔵委員会の招宴が始められておりますから』と注意してくれたので、『ああ、そうだったな』と気軽に出掛けた。参議院食堂である」と事件までの経過を書いている。「追加予算成立のお礼に」と大臣が各会派の委員を招いた恒例の会食だったようだ。

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「月と尾花で、無粋には割り切れない」

「宴会は既に始められ、挨拶も済んでいたので、私は行くなり、酒を飲んだ。6時半ごろと思う。私の席の両隣には両次官が控えた。政務次官塚田(十一郎)君はあまり飲めないので、間もなく立って皆にお酌をしに回っていた。その塚田君の隣が問題の山下春江女史である。塚田君が立ったので、つい私と隣り合わせになってしまった。これがご縁というのであろう」。記述は続く。

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「私は初対面で初めて口をきいたわけだが、山下さんは私などと違って、国会でも有名人であったので、私も若干は聞いていた。サッパリした方なので、スグ心安く互いに盃を交わしているうちに、とうとうコップ酒となった。これが後で問題になったわけであるが、しかし、山下さんも少しはやり、私もただの2杯だけであったように思う。私どもが連れ立って席を立ったのは7時5分ごろのことだというから、わずか30分ぐらいの間の出来事である」

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 どうして2人で席を立ったのか、泉山は「その点はどうも月と尾花で、無粋には割り切れない」と、意気投合したことをにおわせている。「議長室の前を通って、広い廊下をアベックして、階段のところまで行き、そこから引き返したには相違ない。山下さんは戻ってから別席で誰かと話しているようであった。私は間もなく立って大臣席へ帰った」。

 この後は目撃者が複数いる。「風雲急をつげる解散前夜の国会、13日夜9時ごろ、かねて酒豪?をもってきこえた泉山大蔵大臣が、とんだ大トラ武勇伝を発揮して、とうとう本会議を流してしまった」と書いたのは14日付読売2面。「おりしも本会議が再開されるころ、泉山さんは議場裏のソファにへべれけになって寝ていた。“大臣、答弁できますか”と聞けば“できるかどうか分からない”という頼りない返事。やがてふらふらと議場に入ったが、間もなく内部はわあわあという騒ぎ。ちょうど未復員者の給与問題を審議していたが、泉山さんは答弁どころの話にあらず……」