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「僕は君が好きなんだ」と接吻を強要

 一方、「被害者」の山下春江議員は当時、福島県選出の民主党所属。大阪毎日の記者を経て、敗戦翌年1946年の総選挙で当選した日本初の女性議員の1人だった。当日深夜の衆院本会議で「一身上の弁明」として「蔵相は酔って私に無礼を働いた」と発言。翌14日の衆院懲罰委員会で詳しく事情を述べた。

日本初の女性議員の1人・山下春江氏 ©文藝春秋

「泉山氏とは塚田大蔵政務次官を中に挟んで座った。泉山さんは酔って食堂の給仕をつかまえ『これは僕の好きな女だ。皆に紹介しよう』とふざけたりした。私が泉山さんと盛んに献酬を重ねたように言うが、たった2度盃を交わしたばかりだ。どのくらい飲んだか覚えていないが、私は酔ってはいなかった。酒も残り少なくなり、塚田さんが立った後、泉山さんは『ここはつまらんから、よそに行こう』と言って私の右腕を相当の力で握り、廊下へ連れ出して力強く抱き締め『ホテルへ行こう』と言った。私も力のある方だが、振り放せなかった。また『僕は君が好きなんだ。予算や給与案はどうでもいいのだ』とも言い、接吻を強要した。私が顔を横にそむけたので、はずみで左のアゴにかみつかれた。私は泉山さんのホオを一つ殴って、やっと泉山さんの腕をすり抜け、洗面所に入り、髪を直したのだが、このような女性侮辱を黙認できぬので、党の代議士会に帰って事態を明らかにしたのである」(12月15日付読売)

“酔っ払い大臣”への「街の声」は

 社会党の松尾トシ議員も「廊下を歩いていると、向こうから5、6人連れで泉山さんが通りかかり、握手を求められた。私は大蔵大臣として敬意を表すべきと考え、これに応じたが、手を離そうとしたところ、普通より30秒長く引っ張ったまま手を離さない。失礼な態度だったと思います」と証言した(同紙)。新聞は興味津々で報じた。「覚めればイスなし “酔っ払い大臣” 泉山氏、注射も効かず」(15日付朝日)、「一夜明ければネコ 泉山さん、吉田首相へお詫び参上」(同日付読売)、「泉山さん酒ですべる 婦人議員をからかう」(同日付時事新報)。

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「覚めればイスなし」の記事(朝日新聞)

 特に読売は「街の声」を集めて載せている。「不謹慎も甚だしい。責を負うべきだ」「飲んで婦人代議士にちょっとたわむれることぐらいは、その場の座興ですませるべきではあるまいか」「腐った代議士ばかりの国会なら解散することだ」……。読売と時事は「食堂ではアルコールは出さないが、持ち込みはOK」という、国会内の飲酒の実情を報告している。