1947年作品(89分)/東宝/4500円(税抜)/レンタルあり

 先週に引き続き納涼を期して、雪山映画について書く。今回取り上げるのは『銀嶺の果て』。今年で没後二十年となる三船敏郎のデビュー作だ。

 本作は涼やかなタイトルの通り、ほぼ全編にわたり銀世界が映し出されるのだが、なにせ脚本が黒澤明。物語は男臭く、そして激しい。

 舞台は冬の北アルプス。銀行強盗の三人組、野尻(志村喬)、江島(三船)、高杉(小杉義男)は雪深い山中に逃げ込み、雪崩に遭う。高杉は雪に飲み込まれていくが、野尻と江島は助かり、山小屋へとたどり着く。そこには、小屋を管理する老人とその孫娘、そして登山家の本田(河野秋武)がいた。大雪のために身動きができなくなる中、野尻は山小屋の人々と馴染んでいく一方、早く脱出したい江島は苛立ちを募らせる。

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 人情家の中年を演じる志村と、血気盛んな若者を演じる三船――。この好対照な構図は、後の『酔いどれ天使』『野良犬』『七人の侍』といった黒澤の傑作群における両者の演じる役柄の関係性そのもの。その相性の良さを黒澤は既に見抜いていたのだろうか。初顔合わせとなる本作で既に、芝居のグラデーションは見事なまでに完成されていた。

 象徴的なのが、山小屋に逃げ込んだ最初の夜の場面だ。一同は囲炉裏を囲み、冗談を言い合い、音楽に合わせて踊り――と、それまでの緊迫した逃亡劇が嘘のような牧歌的な場面が延々と続くのだが、ここでのリアクションの違いが実に印象的なのである。

 この場面で、志村はだんだんと表情を緩ませて穏やかになっていく一方、三船はひたすらピリピリとした空気を放つ。こうした両者の対照的な芝居により、山小屋に溶け込む野尻、早く逃げたい江島という、双方の異なる心情が観る側に的確に映像として伝わってくることになったのだ。

 そして、この温和な志村と剛直な三船という異なる特性の演技のぶつかり合いが、役柄同士の対立とあいまって物語をスリリングに盛り上げていく。それが頂点に達するのが、物語終盤の決闘場面だ。江島は本田を脅して下山を決行、野尻も同道する。が、岩壁で江島が滑落、それを助けた本田は重傷を負って動けなくなる。そして、見捨てられない野尻と、見捨てようとする江島は、ついに決闘に至る。

 獣のように激しく襲いかかる三船ならではの躍動感と、それを受け止める志村ならではの落ち着き――。役者の特性を存分に活かした、ど迫力のぶつかり合いだった。

 どこまでも広がる白銀の景色と雲海という涼しげな大自然の中で展開される、熱い演技対決。夏の蒸し暑さを忘れさせてくれる作品である。