今回も前回に続いて、この外出自粛期間に観た戦争映画を取り上げる。
といっても、戦場は描かれない。内地のとある学校を舞台にした、ある種の青春映画といえるような作品だ。
それが、『陸軍中野学校』。
若者たちが入学し、勉学に励み、互いに成長し、そして卒業していく――そんな、学園青春ドラマの定型のような構成になっている。
が、本作を際立ったものにしているのは、その「学校」で教える内容が普通とは大きく異なっていることだ。
「中野学校」は戦時中、スパイを養成する陸軍の学校だった。この作品では、いかにしてスパイの技術を学ぶか、という過程が克明に描かれる。
世界中を回るので語学はもちろん必要だし、暗号解読の講義に戦闘訓練もある。殺人術の一つとして薬学の勉強もする。それに加え、手品師から手品を学んだり、金庫破りに盗みのテクニックまで習ったりもする。上流社会相手にも諜報活動できるような社交術、女性を籠絡するための会話術やセックス術、そして拷問を受けても耐え抜く特訓までも。
しかも面白いのは、傍からみると物騒な内容の講義でも、普通の座学と同じように粛々と教え、教わっていく点だ。教わる内容の不穏さと、それを教える側も教わる側も普通の大学の講義のような感じだという、そのギャップに笑う。
校長(加東大介)の熱意や、同級生たちとの共同生活によって、互いの帰属意識や連帯感が高まっていく。この辺りも、学園ドラマのような描かれ方だ。ただ、ここはスパイの養成所。非情の世界だ。
主人公(市川雷蔵)たちは名前を変え、存在を消し、入学し、外部との連絡を完全に遮断しながら暮らす。そして、その帰属意識や連帯感は、脱落した同級生を集団で問いつめて自殺へ追い込むような狂気へと繋がることになる。
もちろん、学校だから「卒業試験」もある。それは英国領事館の最新暗号のコードを盗み出すこと。完全に別人に化けて相手の懐に入り込む姿を、雷蔵が完璧に演じている。
ただ、その過程を通じて、主人公のかつての恋人(小川真由美)が英国に通じていることを知る。主人公が死んだと思い込み、復讐のために英国に情報を売っていたのだ。
これにどう対峙するか。最後に雷蔵が見せるあまりにクールな様は、一つの「青春」が終わり「大人」になったことを残酷なまでに伝えてくる。
この後、本作はシリーズ化。日本の戦争映画では珍しい、スタイリッシュでスリリングなスパイ諜報ものになっている。本作と合わせて、ぜひお楽しみいただきたい。