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藤井聡太はなぜ矢倉でタイトルを取ったのか【勝又清和七段インタビュー 聞き手:白鳥士郎】

genre : ライフ, 娯楽

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──どうすれば勝てるんでしょう……?

勝又七段:
 ただ一方で、AIはもっと強くなってる。それを使った研究も進歩してるから、研究で負かされるということもあり得る。

──頭角を現してきたことで、狙い撃ちされると。みんなとっておきの研究を出してくるでしょうしね。

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勝又七段:
 みんなが研究して、それ(藤井)専用の研究をぶつけてくる。間違いなくそうするでしょう。

──タイトルを取ったことで予選を免除されて、今後はトップの固定された面々との対局が増えると思うのですが、予選から上がってくる棋士に後れを取ることもあり得ると?

勝又七段:
 あるでしょう。実際、大橋貴洸六段の横歩取りを苦手にしてる。横歩取りのスペシャリストと当たった時とか、角換わりのスペシャリストを後手番で迎え撃つ時とか……。

──一手損角換わりのスペシャリストもすごかったですよね!

勝又七段:
 あれは丸山忠久九段の超名局! でも、あれ(竜王戦決勝トーナメント)でまた藤井二冠は強くなっちゃいましたよね。あれで持ち時間が足らずに苦しんだからこそ、王位戦第4局で1時間残すという、とても人間とは思えないようなことをやったわけだから。

──勝又先生は観戦記でも、豊島先生・渡辺先生・羽生先生のどなたと比べても「異常ともいえる卓越した終盤力は、これまでの天才棋士とは明らかに違う」と書いておられます。藤井先生は比較の対象すらいない、ということなのでしょうか?

勝又七段:
 実際、あそこまで終盤が正確な棋士っていましたかね? 強いとかそういうレベルじゃない。異常というレベルです。だから棋士と比較するよりも……天才数学者とか、そういう人と比べるべきなんじゃないかな。

──比較の対象すら将棋界を超えるレベルの才能なんですね……。


「羽生善治は作れる」

 かつてそう語った森下卓は、羽生と同じ道場出身の弟子を取った。

 その弟子の名は増田康宏。藤井が29連勝という新記録を懸けて戦った相手である。

 結果は、藤井が勝って新記録を達成した。

 その対局を控室で最後まで見守っていた森下は、勝又にこう語ったという。

「彼は天才です。弟子はよく頑張りました」

「藤井聡太は作れるのか?」

 羽生善治を作ることができなかったように、藤井聡太も作ることなどできないだろう。

 そして藤井の才能が今までの誰とも異なるものであるのなら……藤井が描く未来もまた、誰も見たことのないものになるはずだ。

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2020/10/05配信

藤井聡太はなぜ矢倉でタイトルを取ったのか【勝又清和七段インタビュー 聞き手:白鳥士郎】

藤井聡太はなぜ矢倉でタイトルを取ったのか【勝又清和七段インタビュー 聞き手:白鳥士郎】

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