勝又七段:
そうですね。だから時代が味方したところもありますか。こんな短期間でバランス型になるとは思わなかったですねぇ。玉の安全度の指標が、昔は金銀の密着度がダントツだったんです。穴熊最強! 銀冠最強! って。
──安心しますよねぇ。
勝又七段:
でも今はそうじゃなくて、玉の逃げ場所があるかどうかが重要で。相手の駒との位置関係。それを今の若手棋士は、そりゃあ見事に指しこなしてます。ホントにみんな上手いですねぇ。
──となると、矢倉という戦型に関しても……。
勝又七段:
土居矢倉とか急戦矢倉とか、玉が薄い状態で戦う矢倉。また、仮に普通の矢倉に組んだとしても、そこからの進み方が今までとは変わってくるとか。
──え? どういう意味でしょう?
勝又七段:
矢倉にこだわらない、と言いますか……たとえば名人戦第6局。矢倉に組んだあと、先手の渡辺名人はそれを自分から崩していくんです。
──わざわざ矢倉に組んで、それを壊すんですか?
勝又七段:
銀が邪魔になって桂馬を活用できないのが弱点だったんですけど、だったら使えるように組み替えていく。そして変型させても、渡辺名人はまた金銀を上手に玉にくっつけていくんです。
──ひぇぇ……手品みたいですねぇ……。
勝又七段:
現代将棋の戦い方を取り入れつつ、自分の将棋の特徴である金銀の密着という部分も成立させる。この二つを両立させたんです。
──やはり渡辺先生もまた、天才ですね!
勝又七段:
『Number』の締め切りに間に合わなかったから、これは載せられなかったんだけど(笑)
──じゃあこのインタビューは爆売れした『Number』の続きということで(笑)
勝又七段:
今後もいろんな形の矢倉は出てくると思う。ただ、2五桂を跳ねていく矢倉は指されないかもしれないですね。オールドファンが楽しんできた矢倉は。
──その意味では、加藤先生が名人を獲得した時の矢倉は終わったんですね……とはいえ今後も戦法の進歩によって、玉を固める将棋が主流になるかもしれないんですよね?