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藤井聡太はなぜ矢倉でタイトルを取ったのか【勝又清和七段インタビュー 聞き手:白鳥士郎】

genre : ライフ, 娯楽

勝又七段:
 やっぱりねぇ……読みの力はすごいですよ。

──藤井先生のような読みの力がすごい棋士は、ソフトの戦法をより取り入れやすいんでしょうか? たとえば読みの力の有無が、戦法の採用の有無に繋がっていくような……。

勝又七段:
 それに近いことが将棋界で起きてますよね。玉が薄い戦法を指すようになった。固さ一辺倒の将棋は指されなくなってきてます。

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──中継されている将棋を見ていても、確かに穴熊の将棋とかは減ってきてる印象です。昔はもっとありましたよね?

勝又七段:
 特に渡辺名人は、2018年3月2日のA級三浦戦で敗れて以来採用していませんでした【※】

※取材後日、2020年9月16日にあった王位戦黒沢戦で穴熊を使用。

──となると、プロ棋士の中でも実力差がどんどん広がっていくということにもなりかねない?

勝又七段:
 そうでしょうね。玉の薄い将棋を取り入れてる棋士には、なかなか勝てなくなるんじゃないでしょうか。

──素人が指すぶんには、玉が固い方が勝つのが当たり前みたいに思えるんですけど……。

勝又七段:
 いや、私も最初は「何でみんな中住まいばっかやるんだろう?」と思ってたんですけど……やる人間は、それをやって勝つわけです。

──はい。

勝又七段:
 将棋は何だかんだ言っても運が絡まないわけだから「勝った」ことが「いいこと」なわけですよ。それで勝てるのであれば、いくら玉が危険だろうが指すようになる。で、いずれ指しこなすようになる。だからプロ棋士全体のレベルも相当上がったと思いますけどね。

──藤井先生だけが強くなってるんじゃなくて、全体としても強くなってるんですね。

勝又七段:
 穴熊やるってことは、楽したかったってのもありますから(笑)

──自玉の安全度を読むのを省略できるから、楽だと。

勝又七段:
 将棋というゲームを敢えて2つに分けるとすれば、「相手の玉を捕まえる」のと「自分の玉を逃げきる」の2種類。玉を逃げるほうのゲームを省ければ、1つのゲームだけに集中できる。

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