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追及された「ドンファンめいたうわさ」

 その中で、中外商業新報(中外)=現日本経済新聞=は「ドン・フアン 福田を極力追及」の見出しで「いろいろのドン・フアンめいたうわさがあるので、麻雀賭博のほかに不良としても追跡中」と早々と報じている。

 3月17日付東朝朝刊では「目黒ホテルから姿をくらまして同日(16日)朝の検挙を免れた福田蘭童氏(33)も川崎市大師町1550の松竹キネマのスター川崎弘子のもとに身を寄せていたのを刑事に見つかり、夕刻警視庁に引かれた」と書いている。

「川崎弘子との結婚ゴシップでうわさを立てられていた折柄の福田蘭童は、失恋自殺を企てた本郷の某カフエーの娘の一件以来、警察の呼び出しを避ける手に、川崎弘子とは同棲していない、大阪に旅行しているなど言いふらしていたが、その裏をかかれ、弘子の家で取り押さえられてペチャンコ。警視庁に引かれてからの蘭童君、弘子をはじめいろんな艶聞を種にじわりじわりと係官から締めつけられ、相当参っている様子だ」

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 事件はその後、「文壇や花形女優 更に續(続)々檢擧(検挙)さる」(3月18日付東朝夕刊見出し)、「賭博檢擧の第三矢 蒲田俳優に集中」(同日付同紙朝刊見出し)などと拡大。作家では文藝春秋の創始者・菊池寛や大下宇陀児、松竹蒲田撮影所では女優の八雲理恵子、筑波雪子、戦後も活躍した飯田蝶子、吉川満子、男優は結城一郎、奈良真養、小林十九二らが捜査線上に上った。撮影の合い間にマージャンをやっていたという。

菊池寛 ©文藝春秋

 3月18日付中外夕刊は「麻雀騒動オールスターキャスト」と見出しを付けた。しかし、ほとんどは短い勾留で、賭けマージャンの隆盛に有名人の検挙で“お灸を据える”のが狙いだったと考えられる。

暴露された「希代の色魔」の乱行

 その中で蘭童だけは違った。「大山鳴動の後に 哀れ留むる蘭童」の見出しの「麻雀賭博檢擧余聞」という記事が3月19日付東朝朝刊に載っている。「福田蘭童は彼をめぐる女数名の不良ぶりと新しい詐欺事件嫌疑が尋問線に浮かび出て『最後の鼠(ネズミ)』として相当追及されるらしい」

 蘭童の結婚詐欺容疑の詳しい経緯が一斉に掲載されたのは3月22日付朝刊。

結婚詐欺の手口を伝える中外商業新報

 見出しは東朝が「竹の音は色仕掛 娘、未亡人、女優を手玉に 結婚詐欺の凄腕」、東日は「美貌鬼・福田蘭童 邪牌檢擧から暴露した“エロ犯行”繪(絵)巻」、読売は「結婚魔! 蘭童の正體(体) 藝(芸)界の名聲(声)に隠れ 惡(悪)辣な結婚詐欺 愛慾(欲)地獄に躍る數(数)名」で、中外は「聞けば春宵心暗し 天才・エロ詐術 福田蘭童行状記」と、いずれもすさまじい。東朝の記事を見てみる。