いなくなったKさんが残した一枚のメモ、残された電話番号
それは、テーブルの一角に画鋲で留められた紙をちぎったようなメモ用紙と、そこに書かれていた荒々しい殴り書きだった。
「ただいま 留守にしてます」
互いに顔を見合わせる一同。
「なんだよこれ……どうなってんだよ……クソ……」
友人はスマホを持ったまま頭を抱え、脂汗をかいている。
Aさんは、そのメモにそっと触れてみた。なんてことないメモ用紙。だが、その裏に何かが書いてある。
「電話番号だ」
Kさんの番号ではなかった。
「連絡先?」
「どうすんだよ……」
「かけてみるしかないだろ……」
「俺のスマホからは嫌だよ!」
「わかった、俺のからでいいから! でも出るのは嫌だぞ俺……」
「わかりました……僕がかけます」
結局、Y先輩のスマホから、Aさんが電話をかけてみることになった。
謎の番号に電話をかけ……“集合体マンション”の真の恐怖
プルルルルル!
プルルルルル!
プルルルルル!
プルルルルル!
プルル――
5コール目ほどで誰かが電話に出た。
「……もしもし? Kか?」
「…………おぉ、どうしたぁ」
「お、おう! 久しぶりだな! その、夏休み前に会って以来だな!」
「おぉ、そうだなぁ」
「あの、さ、今、お前ん家来ててさ。悪い、勝手に上がっちゃってるんだけどさ、あの、玄関の郵便物とかさ、あれは――」
「あっはっはっは! そうだよなぁ~」
「……あの、テーブルの上にメモが、あれに番号あったから、その、かけたんだけど…」
「あー、ありがとうな。俺は、ふふっ、元気だよ」
ここでAさんは電話の向こうの空気に奇妙な距離感を抱いたそうだ。例えるなら、“電話の向こうにいる誰かに聞かせているような”妙なよそよそしさ、そして、“手で持っているとは思えないマイクとの距離感”、そんな微かな疑念だった。
「お前さぁ……今、どこにいるんだよ?」
「遠くにいるよ」