同じタイミングで聞こえる救急車のサイレン
「と、遠く?」
ピーポーピーポーピーポー。
部屋の向こうを救急車が通り過ぎる。
「ピーポーピーポーピーポー」
電話の向こうでも、まったく同じタイミングで救急車が通り過ぎる。
「え、お前、近くにいる?」
「あはぁ、遠くにいるんだよ。物理的には近いけど、実際はずぅーーーーっと遠くなんだよ。まあ、お前ら凡人には、わからないんだけどさぁ」
「……は?」
「俺もやっとわかった。いやぁー……わかりましたよぉ!! ぶっ……ぐっ、あっははははははははははは!!!!」
「……いや、なに笑ってんだよ……おいーー」
受話器から響き渡る不気味な笑い声
その瞬間、電話の向こうから大勢の人間の堪えきれなくなったような笑い声が無数に聞こえてきた。
「うはははははははは!!!!」
「あっははははははは!!!!」
「ひっひひひひひひひ!!!!」
「だぁははははははは!!!!」
「しかしさぁーー若いからって、君やりすぎだよぉーー!!!!」
「あはははははははは!!!!」
受話器から響き渡る不気味な笑い声たち……。
「…………なあ、お前、今、誰かといんのか…?」
「ええ? ああ、ああ、うん。今、電話持ってんの俺じゃないんだよ!! あははっ!!!!」
「…………なんで、電話、持ってないんだ…?」
「俺さ、今、電話“持てなくなっちゃった”んだよ!!!!」
「あはははははははは!!!!」
「いひひひひひひ――」
ブツッ
ツー
ツー
ツー
ツー
Aさんは耐えられずに電話を切ってしまったそうだ。
周りで固唾を飲んでいた一同に、Aさんが電話での顛末を説明する。誰も声を発さなかった。そして、彼らにのしかかるように部屋の中に沈黙が降り注いでいた。誰もそれに耐えることはできず、一同は逃げ出すように部屋を後にした。