そして電竜戦前に公開された『みずうら王』のアピール文章には、おそるべき内容が記されていました。
つまり、水匠は、対抗形を捨てて、その表現力を将棋ソフト同士で進行しやすい戦型の学習に費やしたということである。
「強いソフト」「棋力が高いソフト」というと、あらゆる戦型で棋力が高いというイメージがあるが、水匠は、対抗形をあえて弱くすることで、将棋ソフト同士の対局において実現確率の高い局面の学習にその余力分を回したのである。
(みずうら王アピール文書より)
何と水匠は……対振り飛車での強さを犠牲にして、将棋ソフト同士の対局で頻出する局面に絞って学習させていたというではありませんか!
これはトップ棋士たちが「水匠で研究している」と公言する藤井二冠に対して振り飛車を使い始めたこととも、不気味な符合を感じさせます。
さっそく私は、電竜戦が終わった直後のお二人に、お話をうかがいました。
取材・文/白鳥士郎
なぜトップ棋士は藤井二冠に振り飛車をぶつけ始めたのか?
──お久しぶりです! 本日もよろしくお願いします!
磯崎:
ごぶさたしております。
杉村:
お疲れ様です。
──先日のインタビュー【※】は大好評でした! あの時、お話を聞かせてくださったお二人が、その後タッグを組んで電竜戦に出場なさるということで、非常に驚いたのですが……もっと驚いたのは、お二人の作った『みずうら王』のアピール文章です。
ここに書いてあるのは、つまり……『水匠』は、振り飛車の局面を削っていくことで、どんどん強くなっていったと。
※藤井二冠の自作PCについて最強将棋ソフト開発者に聞いたらトンデモないことが判明した件
杉村:
はい。
──藤井二冠にトップ棋士の方々が、しかも普段はだいたい居飛車を指している方々が、振り飛車をぶつけ始めた。そこに不思議な一致を見たのですが……。
そのあたり、開発者の方々にはどう見えるのでしょう? まず杉村さんにうかがいたいのは、水匠は本当に振り飛車が相手だと弱いのか、ということです。
杉村:
水匠の評価関数の元となっているNNUE(ぬえ)関数というのは、2018年に生まれた技術なんです。これが、それより以前からあったKPPTという形式の評価関数と比べて強くなると。
──KPPTは電王戦の頃によく聞きました。玉を含む三駒の位置関係と手番を使って評価していると。
杉村:
私はNNUEで学習を進めていったんですけど……2019年の大会の時には既に頭打ち状態だったんです。普通に自己対局を繰り返して、それを教師局面として学習をさせても……これ以上強くならないと。