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連載昭和事件史

2021/01/31

「警視庁史昭和中編(上)」によれば、男は3体分の埋葬許可証を持っていた。しかし、「報告を聞いた井手(勇・早稲田)署長は「1日に5体もの乳児の死体を同じ産院から運び出すのはおかしいと直感した。しかも、葬儀屋が同じ産院から既に30体以上もの死体の火葬を取り扱っていることはただごととは思えない。これは深く掘り下げてみる必要があると判断した」という。

肺炎、栄養失調、凍死…「つぎつぎに死ぬ子」

 毎日は「特に名を秘す」としたが、朝日は翌16日付2段で3人の実名を出し、詳しく報じた。

 つぎつぎに死ぬ子 産院と葬儀屋に疑い

 早稲田署では、もらい子殺しの疑いで15日、新宿区柳町27、壽(寿)産院、牛込産婆会長・石川みゆき(52)、その夫・石川猛(58)の両名、及び詐欺の疑いで新宿区榎木町15、葬儀社長・長崎龍太郎(54)を取り調べている。

寿産院(「江戸・東京を歩く」より)

 朝日の記事は毎日と同様の事件発覚の模様を述べた後、こう続けている。

 石川夫妻は昨年7月から新聞、雑誌などに広告し、1人につき5000~6000円養育費を取って赤ん坊をもらい受けていたこと、うち既に39名が死亡しており、死体はいずれも前記長崎が1人500円の埋葬料で埋葬していたこと、また最近5、6日間にも9名が死亡してたことから疑いが濃くなったもので、うち5つの死体を15日午前、国立第一病院・浅野小児科部長が診断したが、3つは肺炎と栄養失調、2つは凍死と診断され、また同日午後、この死体は慶応病院で解剖されたが、解剖医の話では、これらの死体の胃袋には食物の入った形跡を認めないと言っている。なお、同家にはいまなお7名のもらい子がおり、3畳間の竹製のベッドにやせた赤ん坊が転がっている。

「私は最善の保育をしている。なんらやましいところはありません」

 当時の5000~6000円は2017年換算で約5万1000~6万1000円。500円は同約5100円。16日付毎日の続報も「総計四十名も死亡」の見出しで3人の名前を公表したが、石川みゆきは「さん」付け。「私は最善の保育をしている。なんらやましいところはありません」との本人の談話も載せている。

 乳児5人の住所、氏名、誕生日も書いているが、新宿区役所戸籍係長は「壽産院の申請で12日までに23名の死体埋葬許可証は下付したが、その申請書に基づいて死亡届を本籍地に送ると、その大部分が該当者がないと返ってくる始末で非常に困り、再三石川さんに注意もした」と語ったとある。