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 当時は敗戦後の深刻な食糧難で、米も酒もミルクも自由には買えず、世帯の人数などに応じた配給制。違法なヤミ売買が日常的に横行していた。

「199名の赤ん坊をもらい、169名を死亡させていたことが分かった」

 朝日には別項で「死亡百六十九名」という見出しの記事も。担当の東京地検・平山検事が早稲田署に出張。3人を本格的に取り調べた結果、「石川夫婦は199名の赤ん坊をもらい、うち約85%、169名を死亡させていたことが分かった」という。また「井手署長は、石川みゆきが、もらい子に対し殺意があったことを認めたと言明した。これでこの事件は、大量のもらい子殺しという残虐事件に発展する可能性が出てきた」とも書いている。

 同じ1月17日付で毎日の1面コラム「余録」はこの事件を取り上げ、「これは国家や公共団体の社会政策的欠陥によって、こういう事業が慈善的美名の下に営利的に経営されるために違いない」と核心を突いた。

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 2面では「いけにえ既に85名」の見出しで「同産院は昭和19(1944)年4月開業。預かった嬰児は19年が24名、20年34名、21年41名、22年100名、23年13名で、いずれも不義の子が大半を占め、広告を見て預けたものが多い。預かり料としては1人につき5000円から8000円を受け取り、22年だけでも約90万円の手数料を入手していた模様である」と記述。朝日と同一人物と思われる横浜市港北区の女性が「こんなにやせて……」「お母さんが悪かった」と泣き崩れたと書いている。

 また、「某新聞に載った寿産院の広告」がカットで掲載されている。

寿産院の新聞広告も紙面に載った(毎日)

「男女児1ケ月ゟ(より)三歳迄(まで)貰度方有(もらいたき方あり)相談應(応)省線(国鉄)飯田橋降三分新宿牛込柳町二七柳町電停前壽産院」

 90万円は2017年換算で約900万円超だが、ちょっと巨額すぎる気も。同じ日付の読売も、情報源が同一なのか「犠(いけに)えの嬰児八十余」とほぼ同じ人数を挙げ、「赤ん坊を預けた母親はダンサー、女給、戦争未亡人などが多く」と記している。「引取手を待つ五人の赤ん坊」の説明付きで、あどけない表情をした乳児たちの写真が添えられている。

「自分たちが与えていた養育量では子どもが死に至ることを知っていた」

 また、「朝日グラフ」の同年2月11日号には、子どものもらい手を求める広告も載っており、「差上女児一歳三歳男児五歳三歳・来談」(以下同じ)となっている。