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 時間とともにデモが全国に飛び火するなか、李鵬ら保守派は4月26日に党機関紙『人民日報』紙上に、学生運動を完全に否定する内容の社説「旗幟鮮明に動乱に反対せよ」を掲載させる。政治動乱に慣れた北京市民のなかには、潮目の変化を感じ取って慎重になった人もいたようだが、張の熱は冷めなかった。

「学生と一緒にスローガンを叫んだし、旗を持って応援した。旗に何が書かれていたかは忘れちまったが、スローガンはまだ覚えてるぜ。『李鵬李鵬、混昏無能。再当総理、天理難容』ってな」

 これは「応援する立場」ではなく、ほぼ参加者だと言うべきだろう。

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天安門は熱気にだけは満ちていた

 天安門広場の周囲は、デモ隊に水やパンを持ち寄る群衆と野次馬で埋め尽くされた。

「反官倒」(官僚のブローカー行為反対)を主張する手書きのプラカードや旗が溢れ、報道規制への抗議を示す意味から新聞紙で作った服を着ている大学教員も出現した。労働者も共産党員も、果ては個人的にやってきた軍人や警官までもデモに参加していた。

 当初、現場のスローガンは、李鵬の退陣や腐敗撲滅を訴える比較的単純なものが多く、あくまでも党体制の枠組みのなかで異議を唱えるものだったという。5月半ばまでは「社会が根本的に変わったり、党が倒れたりする雰囲気は感じられなかった」とのことで、後年の私たちのイメージとはやや異なった空気感だったようだ。

「もっとも、官倒への抗議、腐敗撲滅なんて言っても、実際のところ今に比べりゃあ当時の腐敗なんてかわいいもんだったと思うぜ。デモ学生も市民も、本気で『腐敗』の被害を感じていたやつはほとんどいなかった。俺自身もそうだったさ」

 大部分の人間が、自分の実感がない社会問題の解決を訴えていたのに、熱気だけは満ちているという不思議なデモだった。

 かいつまんで説明するなら、刺激や娯楽の少ない社会で体制の圧迫感から解放される非日常感と、「もう少しましな世の中にしてほしい」といった程度の現状改善欲求、それらに異議を唱えた李鵬たち保守派への反発が、人々が行動する動機になっていたのである。