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 青木惠子さんはいつも若々しい格好をしている。私が自宅を訪れた3月のある日も、黒タイツの上にミニスカートをはいていた。

「私は若いときからずーっとミニよ。19歳でめぐちゃん(娘のめぐみさん)を産んでもミニ。周りには『何あれ?』って言う人もいたけど、その頃から私は『何よ、負けるもんですか』っていう気持ちだったからね」

 ほかにも黄色い花柄のワンピースなど、華やかな服装をしていることが多い。

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再審判決で、大阪地裁に向かう青木恵子さん ©共同通信社

「私はもう50歳を回っているけど、30代で時が止まっているから。突然50代の服なんて着られない。自分の年齢をわかっていても、やっぱり31歳(逮捕時)の時に着ていた服っていう感じで、それが私にとっては自然なのよ」

 獄中で20年の時が奪われたことを象徴する話だ。だが実は、この服装にはもう一つの意味合いがある。火事で亡くなった娘、めぐみさんの身代わりなのだ。

「めぐちゃんが生きていたら、今ごろは30代でしょ。でもめぐちゃんがその歳を生きることはないのよね。私もその歳のころは獄中にいたから外の世界で生きていない。だから今、その歳を生きてる。30代のような服装をするのよ。めぐちゃんができなかった服装を。めぐちゃんは黄色い花が好きだった。特にひまわりが。だから花柄の服を着るし、ハンカチだって黄色のひまわり柄よ。私は自分の人生と一緒にめぐちゃんの人生を生きてるの」

めぐみさんが好きだった黄色の小物を飾る

内縁の夫による性的虐待

 無実の人が警察や検察の捜査で濡れ衣を着せられ罪を負わされる「冤罪」。青木惠子さんは逮捕直後から無実を訴え続け、無期懲役を覆し完全無罪を勝ち取った。発生した地名から「東住吉冤罪事件」として名高い。

 発端は24年前の1995年(平成7年)7月22日。大阪市東住吉区にあった青木さんの自宅から火が出て全焼。青木さんと小学生の子ども2人、それに電気工事業をしている内縁の夫の4人が暮らしていたが、入浴中だった娘のめぐみさんが亡くなった。火元は自宅内のガレージ。外部から侵入した形跡はない。警察は、青木さんが内縁の夫と共謀し、娘の保険金目当てにガレージでガソリンに火を付け、めぐみさんを殺害したとして2人を逮捕した。火事から1カ月半後の9月10日のことだ。

 この日、青木さんを東住吉警察署に連行した刑事は、取り調べで衝撃的な事実を口にする。内縁の夫がめぐみさんに、性的虐待を繰り返していたというのだ。遺体にその痕跡があった。警察はすでに内縁の夫に性的虐待を認めさせていた。しかし母親の青木さんはまったく気づいていなかった。めぐみさんはお母さんに何も言えなかったのだろう。

「刑事がいきなりあの男(内縁の夫)とめぐちゃんのことを話してきたの」「お前も知ってたんやろ、女としてめぐを許されへんから殺したんやろ、と言われた」「もう私はショックを受けてパニック状態。頭の中が真っ白になったわ」「お前は鬼のような母親やな、めぐみに悪いと思えへんのか、素直に認めろ、と大声で怒鳴って机を叩いてくるのよ」

 驚愕の事実を突きつけられて混乱する中、青木さんは刑事に言われるままに自供書を書いた。これが逮捕の決め手になった。刑事は内縁の夫にも、放火殺人を否認すれば「性的虐待をマスコミにばらす」と告げて自白させた。自白以外に直接の物的証拠はなく、青木さんはすぐに再び否認したが、裁判所は2人に無期懲役の判決を下した。