私には大きな幸せはもうない
この部屋で一人で暮らしていて、寂しくはないのだろうか?
「私はずっと一人で暮らしたことがなかった。高校を卒業して親元を出たけど、すぐに男と一緒に暮らしたし(後に夫になる男性)、夫と別れた後はめぐちゃんやSちゃん(下の男の子)と一緒だったし、逮捕されたら獄中だし。今初めて一人でいるけど、ちっとも寂しくない。いつもめぐちゃんと話してるから。朝だけじゃなくて、いつも何かあるとめぐちゃんに話しかけてるのよ。『ねえ、めぐちゃん、あのねえ』って。だからちっとも寂しいと思わない」
「(冤罪関係の)講演なんかで遠出して自宅を空けるじゃない。そんな時、小さい子どもを置いて出かけている感じがするのよ。まだ子どものめぐちゃんを残したまま、という感じがね」
毎月22日の月命日には墓参りを欠かさず、火災現場にも花を手向けに通う。火事から救い出せなかった。性的虐待に気づかず、助けてあげられなかった。めぐみさんにただただ「申し訳ない」という思い。
「私は死ぬまで申し訳ないという気持ちを抱きつつ生きていくし、それは一生忘れないという思いでいるの」
「刑務所を出てきた時、『苦労したんだから幸せになってね』とみんな言ってくれた。でも現実に待っていたのは親の介護だった。私には日々の小さな幸せはあっても、大きな幸せはもうない。求めてもいない。自分だけ幸せになるのは罪悪感があるわ。だからもう結婚もしない……」
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青木惠子さんが最も熱心に取り組んでいるのは、冤罪の恐ろしさ、残酷さを訴える活動だ。
同時に、同じように冤罪を訴える人たちの支援にも力を入れている。
3月2日には仲間たちと「冤罪犠牲者の会」を立ち上げた。青木さんは共同代表のひとりだ。他にも各地の刑務所で冤罪を訴えている受刑者の面会に訪れたり、支援団体から講演の依頼を受けたり、全国を飛び回っている。
「自分がこんな目に遭ったから。同じ思いをする人をなくしたい」
もちろん、それが大きい。だが、それだけではない。
「私、生きてることが苦しいのよ。めぐちゃんのこと、責任を感じているから。ずっと消えることがないから。そこから目をそらすために忙しくしてるのかも……。ひまになったら危ないよ」
忙しさが、青木さんの心の支えになっている。