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連載サウナ人生、波乱万蒸。

「ヤクザ風呂と地元で呼ばれていた」 24歳のアパレル職が、京都「梅湯」経営者に“転職”したワケ

「ヤクザ風呂と地元で呼ばれていた」 24歳のアパレル職が、京都「梅湯」経営者に“転職”したワケ

京都・梅湯#1

2021/08/13
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人生最大の転機

三次郎  「最後は漏水がどんどん悪化して、最終的に一晩で空になってしまって、1周年の5月で辞めようと思っていたんです。そしたら、これでだめだったらもう辞めようと思って頼んだ業者さんが、めっちゃ腕のいい業者さんで、一発で直してくれた。驚いたことに、それから漏水がぴったり止まって。

 そこから頭の中によぎっていた様々な不安もなくなっていき、業務効率も上がりだしたんです。だいぶメンタルも回復して、自分が働くうえで精神衛生が保てるような空間にしていこうって気持ちも上向きになっていって。厄介だった常連の方を出禁にしたりもしました。

 その頃から、『ここでやめたら、若い人がやっても結局この業界はダメなんだって思われてしまう』って、広い視野で物事を考えられるようになりました。そうしたら、不思議と集客も伸びだしたんです。もう少しだけ続けてみようかなと思えるようになりました。夏には2カ月限定で朝風呂を始めてみたら割と好評で、売り上げも伸びてきて、次は12時間に営業時間を伸ばして、週末は朝風呂にと、進めました。

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 スタッフを雇用して出来た僕の自由な時間はメディアに出まくるようにしたら、さらに客数が増えていって。それで2年目くらいには1日平均100人とかいくようになってきて、人件費を回収できるようになったんで、これだったらいけるって確信を持ち始めました。今こうして6年間を振り返ると、当時はやること一個一個、全てが大きい挑戦だったんですけど、その挑戦をしたことで、それなりの成果がじわじわと返ってきたんだなって思いますね」

一念発起して再建した煙突
二階から高瀬川を臨む京都ならではの風情
不定期でイベントなどの開催も

 煙突の立て直しは決意表明、タトゥースタジオのある銭湯

三次郎  「2018年の3周年を機に煙突を立て直したんです、1カ月店休んで。煙突を直してもお客さんが増えるわけではない。だから立て直すっていうのは本当にこの先やってくぞっていう自分の決意表明でもありました。同時に、湯上りに過ごせる空間へと、2階を改装しました。改装費用はあわせて1000万円くらいかかりました。2階には、タトゥースタジオも作りました。僕と同い年のお客さんで老舗のタトゥースタジオで修業をしている子がいたんです。ただ、独立して開業しようと思っているんだけど、物件をなかなか借りられないって彼が話していたんですよ。でも、彼の人柄や、入れ墨に対してもとても研究熱心なのを見て、こういう人が近くにいてくれたら刺激を受けるなと思って、2階で開業することを提案したんです。同世代で頑張ってる同士の友情的な感じです(笑)」

 旧赤線と呼ばれる、花街だったころの歴史も感じられる五条楽園地区。20代の若者が旧い街に入植し、銭湯を現代にアップデートしたように、梅湯のあるこの街も少しずつ変わっていった。