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うわごとのように「東スポ、東スポ……」

――そんな出会いから、よく恋愛に発展しましたね。

佳子 本当ですよね。よほど眠かったのか、ずっと帰ってほしそうにしていましたから、自分から人を呼んでおいてなんて奴だと思いました。

 おまけにずっと、「田中さん、東スポ買ってきてくれた?」、「東スポはどこ?」、「東スポ……」と、終始うわごとのように東スポ東スポ言ってました。田中さんが、「ごめん、忘れた」と言うと、あからさまにガッカリした雰囲気になったので、眠そうだし帰ろうかと、わりとすぐに退散したんですよ。

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――その日の東スポに、何か重要なニュースが載っていたんですか?

赤井 いや、ただ単にエッチな記事が読みたかっただけ(笑)。

©深野未季/文藝春秋

――……ええと、お2人はどうして付き合うことになったんですか?

佳子 私の一目惚れなんですよ。

――え!

佳子 びっくりしますよね。そんな状態で出会ったのに、「うわ、この人どうしたんだろう」という気持ちから、「何者なんだろう」、「でも、なんかかっこいいな」と。妙に惹かれてしまったんです。

 その日、赤井の部屋を出てロビーまで降りていったら、フロント脇のベル・キャプテンの方が、「○号室の赤井様から『東スポはないか』とかかってきたけど、館内にはないからどうにかしよう」と話しているのが聞こえてきました。これは彼にとってよほど重要な記事が載っているんだろうと、あちこち探し回ったんです。

赤井 それで夜中のうちに部屋に届けておいてくれて。

佳子 まさかエッチな記事が目的だなんて思ってもいなかったので。そして自分の家の電話番号をメモに添えて、扉のところに置いて帰ったんですよ。すると翌日、「あんた誰?」って電話がかかってきました。

――赤井さんは佳子さんのことをまったく覚えていなかったと(笑)。

佳子 そう。だから「昨日、田中さんと一緒にお邪魔した者ですけど」と言ったら、「ああ、ありがとう」と。その時はそれでおしまいですよ。