「何でもAIでできればいいんですが……そんなリソースもお金もかけられないので。ま、費用対効果を見て……ということですね」
費用対効果。
仕事について質問する中で出てきたこの言葉は一見、将棋ソフト開発とは関係ないようにも思える。
しかし加納の話を聞いていくと、これこそが、ディープラーニング系の将棋ソフトを飛躍的に強くするうえで必要なことだったということが、次第に判明していく――
謎の開発者・加納邦彦
さて。前職で先輩後輩の間柄だった山岡と加納が、いかにして将棋ソフト開発へと進んでいき、『チームdlshogi』としてタッグを組むようになったのか?
「仕事の繋がりは最初の1年だけで、あとは基本的に飲み友達という感じでした。会社の勉強会などで技術的な話をしたりという感じです」
「2016年頃に『AlphaGoのクローンを作ってる』という話を山岡さんから聞いて。なんて趣味人なんだと驚いたことを憶えています(笑)」
やがて山岡の興味は囲碁ソフトであるAlphaGoのクローンを作ることから、その技術を応用して将棋ソフトを作ることへと移行していく。
そんな山岡に引っ張られるように、加納もディープラーニング系の将棋ソフトへ知識と興味を深めていった。
山岡が『技術書典』という同人誌即売会に出席すれば、それを売り子として手伝う。
そのイベントでのことがマイナビ出版の目に留まり、山岡が本を書けば、その査読を引き受ける。
もともとディープラーニングや機械学習には興味があり、将棋ソフトの話題もフォローしていたということもあった。
そしてついには自分も将棋ソフトの開発に手を染める……。
「山岡さんが本を書いたり、ブログを書いたり、大会に出たりしているのを見ていて『ちょっとやってみたいな』と思ったのが、開発するきっかけですね」
ところで、加納が作り始めた『GCT』というソフトの名前の由来について。
加納はGoogleの提供する無料の作業スペース『Colab』を使ってソフトを開発していた。GとCはその頭文字だ。
では、Tは?