「Tは『TPU』です。AlphaGoが使用していた、Googleが開発したディープラーニングを高速化するためのプロセッサです。ColabではこのTPUを使うことができるんです」
将棋ソフト開発の現場といえば、家庭に高性能パソコンを設置して行うのが一般的だ。
しかし加納はクラウド環境を使って開発を行う。
開発のためにわざわざ高性能パソコンを買ったりせず、ノートPCだけで将棋ソフトを作り上げた。
「AlphaGoを作ったのと全く同じリソースを使えるわけですから『これはすぐ強くなるだろう!』と思ってやってみたんですけど……思ったより強くならなかったというのが、第29回世界コンピュータ将棋選手権に出たときのことです(笑)」
結果は、1次予選で敗退。
優勝は『やねうら王』。ちなみに同じく初参加ながら決勝で7位になったのが、杉村の『水匠』だった。
「最初のGCTは山岡さんが本に書いていたdlshogiをTPUでも学習できるように作り替えたソフトだったんですが……ボロ負けでした(苦笑)」
「私はノートPCが1台だけなのに、決勝に残るような人たちはインスタンスを5台とか10台とか……一番驚いたのは『Novice』チームですね。AWS価格にして4000万、市場価格でざっくり1億円とかのリソースを使ってて」
「やねうら王の磯崎さんも、テラショック定跡を作るためにAWSを100万以上使用しているとか……これにノートPCで立ち向かうのは、無謀すぎるんじゃないかと(笑)」
翌年、コロナの影響によりオンラインで行われた世界コンピュータ将棋オンライン大会にも山岡と共に出場する。2日目の決勝でGCTは3勝5敗。本家dlshogiも4勝4敗という成績だった。
優勝は7勝1敗の水匠である。
この結果に、加納は手応えを感じた。
「もともとノートPCで出るつもりだったんですが……この大会の前日にテスト対局をしたら、ボロ負けしたんです。それで急遽、AWSを申し込んで、V100というGPUを4台使えるようにしました。そうしたら、2日目に進めて」