影響は間違いなくあるだろう。
渡辺明名人も『最近、藤井くんの形成判断が他と違ってきている』と危機感を抱き、杉村に依頼してディープラーニング系のソフトのセットアップをしたのだから。
「私が新しいモデルを公開しても、あんまり使ってくれる人がいなかったんです。ネット上でも『こんなのスーパーコンピュータでも持ってないと使えないよ』みたいな反応で……けど、ちゃんと使ってくれてる人がいるんだとわかって。嬉しかったですね」
藤井はプロ棋士の中では圧倒的な早さでディープラーニング系を研究に取り入れている。
この差を他の棋士が埋めるのは難しいのではないか? そう尋ねると、加納は頷いた。
「早く導入したというのもですが、NNUE系とディープラーニング系の両方を比較して見ることができるのが強みだと思います。お互いの弱点を把握しているわけですから」
強いソフトを高性能のパソコンを用いて動かすことの利点は、極言すれば『効率がいい』からだ。
時間という限られたリソースの中でいかに効率よく研究できるか。将棋界は今、その競争の最中にある。
評価値グラフを見続けることで水匠の弱点を把握し、効率よくタイトルを獲得した加納の言葉は今後、棋士たちに重くのしかかるだろう。
ディープラーニング系将棋ソフト開発の今後
さて。ようやく長時間マッチの話題である。
加納はどんな役割を果たしたのだろう?
「今回の長時間マッチでは、私は何もしてないに等しいです」
「モデルを10から15ブロックにしたときに、教師データを作り直すのも、学習するのも、ゼロから山岡さんがやり直したので。だから今回の長時間マッチに出場したdlshogiがGCTをベースにしているとか、そういうことはないと思います」
加納はこう言うが、加納がいなければ山岡は現在も独自に作り続けていたモデルに固執していたかもしれないし、企業の力を借りることを良しとしなかっただろう。そして杉村がこの長時間マッチを提案することもなかっただろう。その意味では、そもそも加納がいなければ実現しなかったといえる。
そしてもう一つ、加納が今回の長時間マッチで果たした役割がある。