「私は過去にAWSを借りた実績があったので、すんなりA100を借りることができました。けれど山岡さんは審査に落ちてしまって(苦笑)」
「じゃあチームになりましょうと。『こっちはA100の環境を提供するので、山岡さんはdlshogiの教師データをくださいよ』と……これがチームdlshogi結成のきっかけです」
しかも当時、山岡は自分が育ててきたモデルを一から作り直す決断を下すことができないでいた。
1年以上もの時間を掛けて学習させた……というのもあるが、もっと大きかったのが、山岡の中にあった『縛り』だ。
『dlshogiだけで強くしたかったんです。他のソフトが作った棋譜を学習させたくなかった』
山岡はそう語ったが、加納にはそんな拘りはない。
大会までそれほど時間が残っているわけではなかったが、山岡から提供されたdlshogiの教師データを学習させ、新しいモデルを作り上げた。
「2週間から3週間ほど学習させれば足りるということも今までの経験からわかっていたので。電竜戦には間に合うだろうと」
そして大会本番でA100を8台使用したGCTは、杉村と磯崎がタッグを組んだ『みざうら王』にも勝利して優勝し、初代電竜の称号を得る。
最も少ない費用で最も大きな成果を出そうと行動する加納の存在がなければ、おそらくディープラーニング系のソフトがここまで早く結果を出すことはなかった……2人の話を聞けば聞くほど、そう思えてくる。
そういう意味で、この2人は名コンビだった。
「みんな完全にノーマークだったと思うんです。ディープラーニング系というだけでも弱そうなのに、おまけに無料のColabで作ったなんて、ネタみたいな存在だろうと(笑)」
確かに、優勝前の加納は『謎の開発者』だった。
山岡の名は誰もが知っていたが、加納が何者かという情報はほぼ皆無で、開発者の中には『HEROZの社員では?』と思い込んでいる者もいた。