最強CPU将棋ソフト『水匠』と最強GPU将棋ソフト『dlshogi』が対決するイベント“電竜戦長時間マッチ「水匠 vs dlshogi」”が、2021年8月15日に実施された。
ともにトップクラスの強さを誇る最高峰の将棋AIが激突したこの対局を、開発者は、プロ棋士は、どう見ていたのか。
ライトノベル「りゅうおうのおしごと!」作者である白鳥士郎氏による観戦記を全4編に渡ってお届け。電竜戦長時間マッチの舞台裏を紐解いていく。
※インタビューは2021年8月21日に行われ、棋士の肩書き・段位等は当時のものになります。
第一譜『水匠』杉村達也の挑戦 |
第二譜『dlshogi』山岡忠夫の信念 |
第三譜『GCT』加納邦彦の自信 |
第四譜『プロ棋士』阿部健治郎の未来予測 |
取材・文/白鳥士郎
「なんて……なんて、趣味人なんだ……」
加納邦彦が山岡から初めてその話を聞いたとき、あまりの壮大さに圧倒されたことをよく憶えているという。
なぜなら山岡は、Googleという超巨大企業が行った壮大な実験を、論文だけを頼りに、たった一人で再現しようというのだから……。
「山岡さんは同じ会社の1年先輩だったんです。私は老けて見えるので意外かもしれませんが(笑)」
新卒で入社した会社の同僚。
それが、加納と山岡の出会いだった。およそ20年前のことだ。
現在はお互いに別の企業で働いている。
山岡は今、将棋ソフト開発者が多数在籍し、『将棋ウォーズ』を運営するHEROZに在籍している。まさに将棋が身近にある職場だ。
一方、加納が今の会社で担当しているのは『チャットボット』と呼ばれる技術だ。
「自動会話プログラムですね。サイトを訪問したお客さんに、機械が話しかけるといった技術です」
ディープラーニングを使用した将棋ソフトで初代『電竜』の称号を得た加納の作るAIであれば、さぞ高度な会話ができるのだろう。
そう期待してさらに尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「簡単な受け答えであればAIでできるんですけど……その人がどんな趣味嗜好を持っていて、どんなものを必要としているとか、そこまでは機械では理解できません。その場合はオペレーターに繋いでしまったほうが、費用対効果の面でいいんです。そういう2段階のサービスを作っています」