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連載サウナ人生、波乱万蒸。

シングルマザーだった25歳で来日、3年前には火災で施設全焼… 福岡県のロシア式サウナ「IZBA」のオーナーの“激動”の四半世紀

シングルマザーだった25歳で来日、3年前には火災で施設全焼… 福岡県のロシア式サウナ「IZBA」のオーナーの“激動”の四半世紀

IZBA #1

2021/12/30
note

貿易の斜陽化 IZBA開業へ

「貿易は10年続けたんですが、少しずつ下降線をたどっていって。これから確実に仕事がなくなりそうだなって予測できたんです。そこで、娘もいますし、日本で永住権を得て、国内で事業を始めようと思いました。今IZBAがある土地を宗像で見つけたのが13年前です。もともと私の父が建築家で、ハバロフスク県の高官だった影響もあり、私も建築が大好きでした。

 最初はログハウスを作る建築会社としてIZBAを立ち上げました。今もログハウス販売をしていますが、毎日売れるものじゃないし、ログハウスだけだと生計を立てるのは厳しい。なのでログハウスの材料を使い、バーニャの販売も始めました。バーニャとは、ロシア伝統のサウナのことです。IZBAの敷地内に作ったバーニャは、私もペンキを塗ったり釘を打ったりしているんですよ。自分で作った家だと、どうしてこういう立て付けになったか、細部までわかるでしょ? 自分で少しずつ、時間をかけて、心を込めて作るから、その気持ちは、この壁や柱に宿るんです。

 その中でロシア料理を提供してバーニャ体験をしてもらうサービスも始めていきました。日本で暮らす中で、ロシア文化を日本人にもっと知ってほしいという思いが強くなってきて。子どもたちに聞いても、ロシアがどこにあるのか分からなかったこともあるんです。だから、ロシアのことを正しく理解してもらうために何かやりたいという思いでここを始めました。そして少しずつお客さんが増えていきました」

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今でも風邪気味の時はバーニャに入って治すことも多い

 “サウナ”という言葉はフィンランド発祥だが、日本にも蒸し風呂があるように、焼いた石に水をかけ蒸気を発生させる温浴施設は世界中で古来より存在する。ロシア人にとってはそれが“バーニャ”であり、“サウナ”とは呼ばない。バーニャはロシア人にとって、神聖で大切なものなのだ。

「ロシア人の歴史はバーニャと共にあると言っても過言ではありません。生活において、大事な必需品です。病院がなかった時代、子どもを産む場所は、火と水があるバーニャでしたし、結婚式の前には必ずバーニャへ入ります。病気になったら薬草を体にすり込んだり治療する場所であり、死後は最後にバーニャで体を洗ってきれいにする。今でも風邪気味の時はバーニャに入って治すことも多いです。

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