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「もう、日本には帰れない」

 アジア選手権を追い風に、ロス五輪では再び金メダルの期待が高まる。長年全日本を引っ張ってきた江上や三屋、森田貴美枝らがロス五輪後に引退する意思を固めていたことから、中田は、先輩陣を何としてでも金メダルで送り出したいと考えていた。

 だが、それ以前に日本の作戦の読みが外れた。

 A組の1位は中国、2位米国と予想し、B組を1位で勝ち上がった日本は、準決勝で米国に勝って弾みをつけ、その勢いで決勝戦の中国に立ち向かうという戦略を立てていた。

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 準決勝で米国に勝てば金か銀が手中に出来る。ところがA組の1位は米国になり、準決勝でいきなり中国と闘わなければならなくなったのである。

 チームに動揺が走った。僅かでもチームが乱れれば、中国は勝てる相手ではなかった。0−3であっけなく敗れた。

予選敗退に終わった東京五輪を険しい表情で振り返る中田久美前監督 ©文藝春秋

 3位決定戦でペルーを下し、どうにか銅メダルを獲得できたものの、金メダルしか頭になかった選手らは身体を震わせた。中田が述懐する。

「こんなものいらないと思ったし、もう、日本には帰れないと思いました。何より、引退する由美さんたちに申し訳なくて、顔も見られなかった。金以外は、銀も銅も5位も最下位も同じことです」