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将棋に集中するため、高校を1ヶ月で辞めた

――中学時代は友達と話すことがほとんどなかったそうですね。

伊藤 そうですね、自分から特に話すことはなかったです。休み時間も将棋の本を読んでいることがほとんどでした。周りの目はあまり気にならなかったです。ヤンチャな男子から、いろいろいじられた記憶はありますけど。

――休んでいるとき、友だちとメール等のやりとりはしなかったのですか。

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伊藤 そういうのはまったくないです。そもそもアドレスを交換している人がいなかったので。

――その頃は将棋が支えだったのでしょうか。

伊藤 支えとはちょっと違うような……。やっぱり将棋に集中したいというか、そういう一心だったというか。なんというんですかね、ちょっとわからないです。

――将棋に集中できる環境が欲しかった?

伊藤 あー、確かにそうですね。そういう感じだったかもしれません。将棋以外の話題にそれほど興味がないので、学校の人と特に話すことがなかったです(笑)。将棋がやりたいから学校生活を切り離していた? まあ、そういう経緯だったかもしれません。

 

――高校進学は迷われたのですか。

伊藤 12月に三段リーグ入りを決めて、次の開幕まで3ヶ月ほど時間が空きました。だったら受験勉強してみようかという感じで。合格して入学したのですが、1ヶ月で辞めました。そこそこ偏差値の高い高校に行ってしまったので、課題も多くて面倒になってしまって。そうでなくても辞めていた可能性はあると思いますけど。

 最初は高校くらいは行ったほうがいいのかなと思っていたのですが、入ってみると意外と厳しいなと感じました。親にはけっこう反対されたのですが、その日のうちに押し切って次の日に退学届をもらい、週末に学校に出しました。先生は「どうして?」という感じでしたが、止められはしなかったです。棋士を目指すことを理解してくれました。

新人王戦で優勝して、初の10代同士の記念対局が実現

 2021年10月11日、第52期新人王戦決勝三番勝負で伊藤はプロ入り同期の古賀悠聖四段を2連勝で破り、棋戦初優勝を飾った。

 赤旗新聞が主催する新人王戦では、優勝者がタイトルホルダーと記念対局を指すことができる。非公式戦ではあるが、棋譜は新聞紙上に掲載される。棋士にとっては真剣勝負の場であることに変わりはない。

 対戦カードは、主催側が将棋連盟とタイトルホルダーのスケジュールを調整した上で決まる。優勝者に指名する権利はないが、伊藤が対戦したい相手が誰であるかは、聞かずともわかることだった。それは関係者やファンが望むカードであったと言ってもいい。

 伊藤は、記事の中に自分が藤井との対局を希望したと書かれたものを目にした。だが本人は「藤井さんと答えたかどうかは覚えていない」と話す。多分、対戦したいかと聞かれて「そうですね」と答えたものが、優勝者のコメントとして伝わったのだろう。