1975年(82分)/東映/4950円(税込)

 前回の『怪談せむし男』を含めて、東映のマニアックな作品は「東映ジャンクフィルム」というレーベルからAmazonプライムで数多く配信されている。

 ただ、配信をご覧になれない環境の方からすると置いてきぼりの感も出てくるかもしれない。が、安心していただきたい。ここにきて東映ビデオもそうした作品を次々とソフト化していて、これまで一部の名画座かCSの専門チャンネルでしか目にすることのできなかったマイナー映画、カルト映画を家庭で気軽に観られるようになっているのだ。

 今回取り上げる『トルコ渡り鳥』も、そんな一本。それまで映画興行を支えてきたヤクザ映画路線も動員に陰りが見られる一方、次なる鉱脈もない――そんな一九七〇年代半ば、東映の作り出す映画は「なんでもあり」というヤケクソ気味のカオスにあった。ポルノ映画も多く作られている。本作は、そうした流れの中で生まれた作品である。

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 内容はタイトルの通り。「渡り鳥」のように全国の「トルコ風呂」――女性が男性客に性的なサービスをする特殊浴場で現在の呼称は「ソープランド」――を渡り歩く風俗嬢(芹明香)とそのヒモ(東龍明)の生態が映し出される。

 本作はさまざまな驚きに満ちている。なにせ、二人のドラマパートの合間に「硬質な教養ドキュメント」が挟み込まれているのだ。同じ「風俗」でも「性風俗」よりも「生活風俗」のニュアンスが強い。

 時おり本物の客、風俗嬢、経営者の証言が挿入される上に、「トルコ嬢は戸籍謄本一枚あれば、どこでも働くことができる。より良い条件の土地を求めてトルコからトルコへと渡り歩くのである」「トルコ。それはさまざまな形態をもって存在する」といった硬くて重い口調のナレーションが流れる。そのために教育系のドキュメンタリー映画かのような錯覚を抱いてしまう。

 本来なら煽情的な描写となる性的プレイの数々も、「これから彼女たちの華麗なるテクニックの一端を見てみよう」というナレーションとともに淡々と無機的に紹介され、その超絶な技巧の数々がまるで刀鍛冶や陶工のような「職人技」として映し出されることに。だからエロティックな気分になることは全くない。

 しかも、このNHKアナウンサーのような口調のナレーターは、なんと山城新伍。通常、この手の映画なら率先して下世話な方向に持っていくポジションに回りがちな山城新伍が、生真面目一本で語っていることにも驚かされた。

 ポルノのふりをしてこんな映画が作られているところにも、当時の東映のカオスをうかがい知ることができる。

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