危機を救えるのは“彼女”しかいない
第1次合宿が始まった3月中旬、全日本候補の二十数名が顔を揃えた。
そこにはベテランの吉原知子やシドニー五輪の屈辱を味わった竹下佳江、高橋みゆき、杉山祥子、そして高校を卒業したばかりの大山加奈、栗原恵など、年齢や個性だけでなく、技術もばらばらな選手が集められた。柳本がどんなチームを作りたいのかは、皆目見当がつかなかった。
柳本は主将に吉原を据え、吉原中心のチームを作ろうと考えた。バルセロナ、アトランタに出場している吉原は、女子バレー界では数少ない五輪経験者だった。日立、セリエAの強豪ローマなどで濃密な競技人生を送り、その経験から培ってきた独特のバレースタイル、理論を持っていたため、歴代の監督からは使いにくい選手というレッテルを貼られてきた。若い選手で闘うという協会の方針にも阻まれ、うまさに関しては日本一の選手が、7年間もナショナルチームから外されたままだった。
柳本は東洋紡の監督時代、吉原のバレーに対する飽くなき探求精神を目の当りにし、今の女子バレー界の危機を救えるのは吉原しかいない、と踏んだ。
「東洋紡が廃部になるまでの3年間1緒に闘い、そして反目されたこともありますが、彼女の性格や考え方を熟知していた。吉原は、誰が見ても日本女子バレーの中心選手。日立で山田(重雄)バレーの薫陶を受けている。セリエAでも闘ってきた。ダイエーや東北パイオニアではアメリカの代表監督だったセリンジャー・バレーも体得している。彼女の知識と経験を若い選手に還元してほしいと思った」