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「現に娘の姉が嫁に行った際にも、結婚の当夜まで夫婦はいかなるものであるかということを知らず、非常に困ったということを、今回の事件が起こった時に子どもたちから聞かされて大いに責められたような苦い経験をなめました」と述べている。「この私の教育法が既に誤りでした」。

 手記は「私が断固たる行動に出るまでには随分考えました」と述懐。内々で済ますか表沙汰にするかの二筋道だったとして次のように述べた。

「表沙汰にしたらどうでしょうか。知らない人にまで内輪の恥をさらし、家名を汚し、本人のみならず、家族全体が後ろ指をさされる思いをしなければなりません。しかし、一時の恥をさらすつらさに天を偽り、娘を純潔から殺すよりも、たとえ家名を犠牲にするとも、一切を公沙汰にして娘の汚辱をそそぎ、娘を純潔に生かすことができるのならば、断固たる行動に出なければならないと思いました」

 鎮之助は六女への言葉を最後に書いている。

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「絶対に父を信頼せよ。世間は捨てても私は捨てない。おまえにはみじんも罪はないのだ。むしろ、家庭教育を誤った私に罪があるのだ。もし世間が責めるならば、私に罪の償いをさせていただく。おまえは決して恥ずることはない。これからどこへでも私が連れて行く。決して寂しく思うな。不安に思うな」

博士には“余罪”も…?

 大野博士の犯行は、医師を信頼することしかない患者の無知につけ込んで立場を悪用しており、手口は悪質。さらに卑劣に思えるのは、高名な医師であるというエリート意識に加えて、父親が悩み抜いたように、被害者が世間体をおもんばかって泣き寝入りすることまで計算に入れているのが一連の言動から読み取れる点だ。

博士絡みの組織にも疑惑が及んだ(読売)
 同じころ、同様の医師の事件が起きていた(国民新聞)

 それまでにも同様の行為をしていたことをうかがわせる。3月4日付(3日発行)東朝朝刊の続報も「従来も婦人患者に同様の態度をなしたことがあり、横浜学士会では数年前、除名処分を行い、また日本海員組合掖済会からも解職された」と報じている。