1. 各新聞は容易ならぬ大事件として、重きを置かれた社員に調査を命じた。現場にはせ参じたのは警視庁詰めの記者たち。内訳は國民新聞3人、やまと新聞5人、都新聞3人、二六新報2人、東京日日2人、萬朝報2人、東京朝日3人、報知新聞1人、時事新報4人、東京毎夕新聞1人、読売新聞1人などだった。
2. 亀戸は天神と藤の花が有名だが、付近の工場従業員を当て込んで遊園地ができ、銘酒屋(酒を飲ませ、売春もするような店)などの一角が作られ、かえって最近の方がにぎわうようになった。事件の捜索(捜査)本部はそこからほど近い小松川署巡査部長出張所に置かれた。
3. 捜索本部は、状況から犯人の目的は五十嵐一家の鏖殺で、その原因は怨恨だとして、刑事をその方面にだけ動かした。
4. 刑事たちの動きを注視し、他社に抜かれないようにしていると、亀戸に泊まらなければならなくなった。
5. 本部の近くの駄菓子屋が記者のたまり場になったが、そこは銘酒屋の女将やその亭主たちも集まってくるので繁盛していた。話題は電流事件に始まって、落ちは美女と好男子の話。
「美女を紹介してくれ」「「刑事や記者が百人以上も入り込んでいるから…」
ここから推測できるのは、その駄菓子屋で出たうわさ話や憶測がそのままニュースになっていることだ。記事は続く。
6. 記者の1人がある女将に「美女を紹介してくれ」と言うと、「刑事や記者が百人以上も入り込んでいるから、むやみに客引きをせず、来ても茶と酒を出すだけにしろと組合から通知が回っている」と言われた。
7. そんな中で、ある記者が銘酒屋を冷やかしているうち尿意を催して、一軒の便所を借りた。その店で美女を見つけ、勧められて酒を飲んで交渉を持ち掛けたが、にべもなく断られた。勘定は4円50銭(現在の約1万4000円)だった。その話を聞いた記者連中は「小便代4円50銭は少し高すぎる」と笑った。
8. 3人の記者がある店に行って「泊めろ」と談判したが、相手を刑事と見たようで「酒と夜具は出すが、女を取り持てない」と言われた。記者の名刺を出して談判を続けた結果、2人だけ取り持つことになって1人は帰った。
あちらも虚報、こちらも虚報
ここまでは記者の“恥ずかしい話”(昔の記者たちは半ば自慢話のように思っていたようだ)だが、ここから記事の内容に移る。