「わたし、きれい?」

 きれい――そうマスクの女に答えると、「これでも?」とマスクの下の口が耳まで裂けた顔を見せる「口裂け女」。犬なのに顔は人間の「人面犬」。

 これらの「都市伝説」は1970年代、80年代に子供を通じて膾炙した。ところが2000年代に入り、インターネットという繋がりが新しい物語を生み出すことになる。

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 6月3日に全国公開される映画『きさらぎ駅』は、同名の都市伝説を基に、観客もその世界観を体験できるホラー作品。主演は恒松祐里さんだ。

「都市伝説には怖い話が多いのでいままでは見ないようにしてきました。『きさらぎ駅』を知ったのも出演が決まってからです。台本を読むとき、はじめは周りに人が居るところで読んでいました(笑)。でも読んでいくうちに怖いだけではないことが分かってきて、撮影が楽しみになりました。22歳までに主演が夢だったので、23歳直前で撮影に入れて嬉しかったです」

恒松祐里さん ©2022「きさらぎ駅」製作委員会

 恒松さんは民俗学を専攻する大学生の堤春奈を演じる。

 春奈は卒論執筆のため、神隠しを経験したと噂される葉山純子(佐藤江梨子)のもとを訪れる。現代版神隠しと考えられる「きさらぎ駅」の物語を調べ、「誰も見たことのない新しいものを書く」と意気込んでいたのだ。その探究心が、春奈を異世界に迷いこませることになる――。

 本作のモチーフになった「きさらぎ駅」は、2004年1月8日深夜、インターネット掲示板に現れた「はすみ」を名乗る人物の書き込みから始まった。

《気のせいかも知れませんがよろしいですか?》《先程から某私鉄に乗車しているのですが、様子がおかしいのです》

 その電車はなかなか止まらず、聞いたことのない無人の「きさらぎ駅」に到着した。「はすみ」は駅周辺で次々に起こる奇怪な出来事を伝え続けるが、やがて書き込みは途絶え消息不明となり、伝説として語られることになった。

 映画はこの世界観をふんだんに取り入れている。

「物語の途中、一人称視点――ある人物の目で物語が進みます。そのシーンに私はいませんが、撮影では頭にカメラを装着して芝居をしているんです。振り向いたり走ったり、動きが激しいので、他のカメラマンさんや音声さんが映り込まないよう、何度も動きのシミュレーションを重ねて撮ったそうです。私たちを襲う超常現象の場面では、CG製作のデザイナーさんが現場でイメージを説明してくださったので、想像しながら演じることができました」

 恒松さんにとっては、ホラー映画自体が初挑戦だった。

「ホラー作品を数多く撮られてきた永江二朗監督が現場でおっしゃっていたのは、『ホラーは数学だ』ということ。振り向く、表情を変える、悲鳴をあげる。その動きは、コンマ何秒の違いで見え方がぜんぜん変わってしまうと教わりました。その積み重ねが怖さを生み出しているんです」

 都市伝説に引き寄せられた人間の好奇心は何を生むのか。この映画はエンドロール後も決して目を離してはならない。

つねまつゆり/1998年、東京都生まれ。2005年、ドラマ『瑠璃の島』で子役デビュー。09年、『キラー・ヴァージンロード』で映画デビュー。19年の映画『凪待ち』でおおさかシネマフェスティバル2020新人女優賞受賞。21年、NHK朝ドラ『おかえりモネ』、Netflix『全裸監督シーズン2』に出演。舞台でも活躍中。

INFORMATION

映画『きさらぎ駅』
https://kisaragimovie.com/