文春オンライン
銀座で3000万円台、厚すぎる床…“失われたデフレ時代”のすごいマンション

銀座で3000万円台、厚すぎる床…“失われたデフレ時代”のすごいマンション

伝説マンションBEST45 第7回・1990年代「デフレ時代のレジェンド」編

2022/06/26
note

41 アルファスシティ大島(1996年/菱進不動産、栄泉不動産)

 90年代、私はマンションの業界団体で主として調査業務をしていたが、同時に「苦情対応」も担当していた。その当時、寄せられる苦情で多かったのは「騒音」と「結露」。

 中でも「結露」は、断熱材の有無や質・量の問題だけではなく、所有者の管理問題となるため、対応する側としても説明が難しく、苦労が多かった。

 実はデフレ期でも、マンションは品質を競わなければならない時代だった。大量供給時代だったので、他物件と差別化を図らなければ販売競争に負けてしまうからだ。

ADVERTISEMENT

アルファスシティ大島の外観写真(2003年7月撮影)

「アルファスシティ大島」(江東区東砂)は、このようなマンションが内包する問題に対応する形で生まれた「意識の高い」マンションである。

 基本的に柱を室外に出す「アウトフレーム工法」を採用しており室内に梁のない設計を施した。騒音問題に対応するために当時150㎜が平均的であったスラブ厚(下層の天井から上層の床までのコンクリートの厚み)を190㎜としている。

 また、下水道など長期的には管理コストが必要となる配管に、管を保護する加工を施した「鞘管方式」を導入するなど、マンションの長寿化に配慮している。地震対策にもかなり力を入れており、玄関ドアやガラスを耐震仕様にしている。

アルファスシティ大島の間取り

 しかしこのマンションの衝撃はこれら仕様にある訳ではなく、むしろ価格にあった。平均坪単価は180万円で、江東区という都心近接立地で通常の所有権の物件としては珍しい200万円を切った物件である。平均専有面積は78.20㎡で一戸平均価格は4258万円だ。バブル期に郊外に押し出されたマンション立地が、確実に都心部の周辺にまで戻ってきたことを示す予兆のような物件であった。