44 銀座タワー(2003年/三菱地所)
1991年のバブル崩壊による地価下落が原因で、その後10年余に及んだマンション立地の都心回帰はこの物件で極まった。私はそのように見ている。90年代の物件ではないが、90年代の変化を考える上で、締めくくりにふさわしい物件として選択した。
「銀座タワー」(中央区銀座)は2002年1月に分譲され、2003年に竣工した三菱地所による定期借地権分譲マンションである。施工会社は鹿島建設。東京メトロ有楽町線「銀座一丁目」から徒歩4分。
住まいとして見た場合に「銀座」をどのように評価するのかは人によって違うだろう。その意味では「麻布」や「青山」、「広尾」、「番町」の方が立地ブランドは高いかも知れない。しかし、通勤利便性や生活を楽しむという視点で見た時、銀座1丁目は「これ以上はない」立地である。
価格表を見てまず驚く。現在という立ち位置から見返してもさらに驚きが増す。頭に「1」が抜けているのではないかと思うほど価格が安い。定期借地権だからということを差し引いても、かなりの低価格であった。60㎡前後の住戸が3000万円台で、75㎡程度の住戸が5000万円で購入可能であった。
多くの人がこのマンションを「貸したら有利」と見なした。実際のところ、「半投半住」(半分投資・半分居住目的)という、その後に生まれた造語を地で行く形になっていた。
このマンションは、結果としてその後のマンション市場に2つの大きな影響を及ぼしたと考える。ひとつは都心回帰が極まってその後のマンション立地における「都心一極集中」の流れを生み出したこと。もうひとつはマンションが投資にとって優良な資産であることを改めて認識させたことだ。
1991年以降のマンション価格と地価の下落は、結果としてこの時期に終了していると考えられる。「ようやく長いトンネルを抜けるのだな」という実感を伴った物件のひとつであったことは間違いない。
この翌年から、都心に多くの高級マンションが分譲、建設されることになる。このマンションは図らずも「立地=価値」ということを改めて示すことに成功したのだ。