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2022/06/24

source : 電子書籍

genre : エンタメ, 娯楽, , 歴史, 読書

その3、金時山(神奈川県・箱根)

 金時山は関東でも一、二を争う、人気の低山であり、展望の山としても、このクラスでは一、二を争うだろう。

 山の姿も、箱根随一といってよい。箱根外輪山の中でもひときわ特徴のある形は、どこから見ても金時山と分かり、親しまれている。

 歩く山としても、アップダウンもほどよく、どのコースをとっても好ましい一日のハイキングが楽しめる。

 また、坂田金時、すなわち金太郎伝説は山名の由来であり、山のおもしろさの大切な要素だと思う。

 関東の名峠である乙女峠がコースの中に入っているのも、金時山歩きの価値をぐんと引き上げている。

見事に群生するハコネダケの向こうに、金時山がもっこりと立つ、矢倉沢峠のうぐいす茶屋の前からの眺めだ。©小林泰彦/文藝春秋

 かつて米国東部から来た山好きの男をここに案内したことがあるけれど、乙女峠に立って富士を見たときは一瞬絶句して、それから、こんなすばらしいところは初めてだよ、日本は自然に恵まれた国だなあ、とひどく感心していたのを思い出す。

 少しオーバーだが、世界中あちこち旅している男なので、いちがいにほめすぎともいえないのだ。

 その金時山に初冬のある日、出かけた。連日穏やかな冬晴れが続く間は仕事が重なって出られず、ようやく出かけようとしたこの日がたまたま曇り日で、そういえばことしはこんなことが多かったなどと、同行者を相手に少しぐちりながら、乙女峠の登り口に当たる乙女口に立った。

 さすが人気コースだけあって、登山口もそれらしい。道標、案内図、お地蔵さんに石碑の類が並んで、満足な道標さえない不人気コースの入口とはえらい違いだ。

米国東部の男を感動させた景色

 名物のヒノキの植林の登りで乙女トンネルの入口を過ぎると、冬枯れた雑木林とササの道である。トリの声だけが響く中をひと登りで、茶店のある乙女峠に着いた。

 以前に米国東部の男を感動させた富士が、この日もそこにあった。