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 あとで聞いたのだが、函館山の稜線全体に及ぶこの要塞の大砲が使われたのは敗戦直前の一発だけで、それも敵艦に命中せずに終わったとのこと。

 けれどもこの要塞跡もひとつの近代遺跡なので、放置せずに手入れして、いまからしっかり保存したらどうだろう。いまわしい戦争の跡でも、歴史となってしまえば価値が生じると思うのだが。

 地下要塞の中心部から林道に出て、少し進むと分岐で、直進する道は稜線を辿るが、ぼくらは右に向かった。

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 少し下って汐見山コースを分け、さらに下るとスギの巨木が多くて環境が一変するが、5合目とある分岐を左に登り返すと再び稜線に出て、車道と駐車場に出合い、その上に砲台跡があった。こちらは公園のように整備され、大砲の回転台座が円形のベンチに変わっていた。

千畳敷あたりの要塞跡。これが戦闘指令所跡で、まん中の円柱は観測器の台座と聞いて、なるほどと思った。ここからレンガづくりの壕が長く続いている。©小林泰彦/文藝春秋

 ようやく御殿山に着いた。御殿山は函館山の主峰で、三角点もここにある。ロープウェイの山頂駅があり、車道も上がってきていて、突然大勢の観光客に囲まれた。

 展望台から見る夜景は東洋一(?)と有名だが、昼間の眺めももちろんすばらしく、海にはさまれた函館市の大観を楽しんだ。

 観音山コースとある道標を頼りに、カラフルな葉が散る中を下山した。

 車道を何度か横切って行くと石柱が2本並び、それぞれ「海軍用地」「陸軍××」と刻んであるので、ここが陸海軍の境界だったのだろう。

 木の間に函館ドックが大きく見えるとすぐに墓場のまん中を抜けるようになり、ついに実行寺というお寺の境内に出た。

 墓地には、明治2年に幕軍の軍艦のボイラーが爆発して焼死した水夫の墓が見つかったりして、いかにも函館山ハイキングらしい終着点だった。

 函館山は、ロープウェイで上がって夜景を見るのもよいけれど、歩いて登って昼景を見る方がずっとすばらしいと思った。(1995年秋)