1ページ目から読む
3/6ページ目

その2、六甲山(兵庫県・六甲山地)

 ぼくは関西の山にはなじみが薄いけれど、それでもこれまでに六甲へは何度か出かけている。といっても、どれも車やケーブルカーで観光しただけなのだが、六甲の人気や知名度の高さは承知している。

 また、六甲山のすばらしさは、大都会と隣り合わせに整った自然という組み合わせの妙にあると思う。これは比叡山と京都の組み合わせにもいえるのだが、残念ながら関東には例がない。

 街にあって、ふと目を上げると都会の甍(いらか)の先に思いがけない山の姿が大きく迫る、そんな胸を突かれるような経験が誰でもあるのではないか。

ADVERTISEMENT

 以前、インスブルック(オーストリア)の街を歩いているときに同じような思いをして、この街はどこがよいかというと、つまり街と山が長焦点レンズで覗いたように重なって見えるところがよいのだな、と思った記憶がある。

最高点から南の方、西お多福山を見る。アンテナの林立は大都市をひかえた低山の宿命だが、それにしても、六甲山はアンテナが多い。©小林泰彦/文藝春秋

 そうはいっても、都会と隣り合う自然が損なわれていてはダメなのだが、その点も六甲山はよく管理されている。ドライブウェイやケーブルカーや各種の施設がこれでもかと入り込んでいるわりには、自然がよく保たれている、と、そんなことを話しながら、ハイキングでは初めての六甲山にやってきた。

 めざすのは六甲山の最高点(931メートル)で、芦有自動車道路の東おたふく登山口バス停から入ることにした。

 前日までは有名な「魚屋(ととや)道」を海の近くから辿ってみようと思っていたのだけれど、この日は天気が不安定で、朝から日がさすかと思えば暗雲が風を伴って来るといった様子なので、山頂に近い登山口を選んだ。

 六甲山も宅地化が進んでいるようで、歩き始めたぼくらの後ろを芦屋市清掃局の車がチャイムを鳴らしてついてきた。

六甲山の人気の理由は…

 林道へ入って、やっと六甲らしい気分になった。冬枯れの雑木林ではアカマツばかりが元気がよさそうで、小さな流れの水は清らかだ。常緑の低木もあり、トリも多い。山腹には崩れたところがいくつもあり、そこは卵黄色で目立っている。六甲山はどこもそんな感じで、いかにももろい地質に見える。そのせいか沢には頻繁に砂防堰堤が設けてある。