文春オンライン

そのとき現場で何が起きたか

「あー、なにかあったんだ」「事故が起きちゃった」雪山の谷底で行方不明になった女性が“唯一記憶していること”

「あー、なにかあったんだ」「事故が起きちゃった」雪山の谷底で行方不明になった女性が“唯一記憶していること”

『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』より #5

2023/01/10

「あれ、人じゃない?」

 テラスのあたりからは、いくら捜しても横山の姿は確認できなかったが、独標方向へ少し上がった場所から捜索していた名古屋のパーティが、谷底の雪原に黒っぽい岩のようなものがぽっこり出ているのを発見し、「あれ、人じゃない?」と言い、その場がざわめき立った。

「新雪が降ったはずなのに、そこだけ雪が被っていませんでした。生きていてほしいという気持ちからか、それが動いているようにも見えました。横山さんが着ていた赤いハードシェル(雪山用アウター)のジャケットに見えるような気もしました。はっきりとは確認できないんですけどね」(田原)

 そこで警察に電話を入れ、横山らしき人を発見したこと、動いているようにも見えること、天候と視界も回復してきていることを強く訴えた。当初、警察は「風が強いのでヘリを飛ばすのは難しい。西穂山荘から地上部隊の救助隊を出すか検討中」とのことであったが、現場の状況がよくなりつつあることが伝わり、「そのまま30分ほど、そこで待機していてください」という指示を受けた。

ADVERTISEMENT

事故を起こした男性はパニック状態に

 警察とのやりとりが一段落し、その場に残っていたほかの登山者はそれぞれの行動にもどっていった。最後まで残っていた名古屋のパーティも、「僕ら、もう行っていいですか」と言ってきたので、田原は「もちろんです。ありがとうございました」とお礼を言い、名前と連絡先を聞いておいた。現場で待機している間、彼らは携行していたグランドシートをツエルト代わりに使って寒さをしのいでいたが、その場を離れる前に「グランドシートは差し上げます」と言ってくれて、非常に助かった。

 事故を起こした当事者の男性にも、横山への声掛けと捜索を手伝ってもらっていたが、なかばパニック状態に陥っており、「とんでもないことをしてしまいました」「申し訳ありません」を繰り返すばかりで、あまり役には立たなかった。

関連記事