《今から10年ほど前、私の娘がお医者様から『お気の毒ですが、悪い病気です』『急性リンパ性白血病という病気です』と宣告されました。その後、お医者様から何を説明されたのか、全く覚えていません。娘はその時、中学1年生。(略)病名を話して共に闘うということになりました》

 映画『いちばん逢いたいひと』の堀ともこプロデューサーは、自身の経験をそう振り返りながらこの作品を企画した理由を述べている。

 白血病は小児がんで最も割合の多い、1年間で1000人の子どもに発症しているという「血液のがん」とも呼ばれる病気。本作は病に侵された少女・楓と家族の闘い、そして病気を通して出会った人たちとの、いのちの繋がりを描いている。楓の母・佳澄を演じるのが高島礼子さんだ。

ADVERTISEMENT

高島礼子さん ⒸTTGlobal

「実は、堀さんやお嬢さんから事前にお話を聞くことはしませんでした。脚本も務めた丈(じょう)監督のドラマを演じる私が、“現実”に縛られてしまうと何かに遠慮してしまうような気がしたんです。リアルであることは、作品に良く作用することもあれば、悪く作用することもあるんです」

 白血病の治療には抗がん剤や放射線、造血幹細胞移植といった方法がある。骨髄や末梢血幹細胞、臍帯血を移植する造血幹細胞移植では、患者と提供者であるドナーとの間で、HLAと呼ばれるものの型が適合しなければならない。

「楓と同じ病室で白血病と闘う子どもたちの姿から病の実態が見えてきます。大人でも辛い抗がん剤治療を子どもが受け入れるのは、生きたいからなんですよね。移植治療も大変で、血を分けた家族でも適合者がいるとは限らないし、骨髄バンクにドナー登録された54万人とも合わずに辛い思いをする。仮に見つかっても楽観はできなくて、移植直前にドナーの都合で提供を断わられることもある。患者と家族は薄氷を踏む思いで闘っているんです」

 それでも楓を見守る家族は、前向きな姿を見せ続ける。

「一番辛いのは本人なのに、家族が沈んだ顔を見せてどうする、ということですよね。ただその空気は監督の指示で作られたわけではないんです。夫役の大森ヒロシさんと義父役の不破万作さんは、実際にご家族を白血病で亡くされていました。こんなに身近なところで、この病気を知る方がおられた。私も20歳で母をがんで亡くしました。皆のそういう経験が滲み出たのかもしれません」

 物語の後半、白血病をのり越えた楓はひとり旅に出る。病と家族から自立し、生を噛みしめる旅である。

 その旅で出会った、人生を悲観する人物に自分の思いをぶつける場面がある。

「同じ病気で助からない子もいたのに、なぜ自分は生きているのか。楓は元気になってもそういう思いを背負い続けていたんだとハッとさせられました。自分や身近な人が罹ることで病気から学ぶことがある。この作品は、いつか何かを気付かせてくれる、そう思います。お子さんと一緒に観られる作品でもありますよ」

たかしまれいこ/1964年、神奈川県出身。88年『暴れん坊将軍lll』で女優デビュー。『陽炎』シリーズ、『極道の妻たち』シリーズの四代目極妻役などで注目を集め、2001年には『長崎ぶらぶら節』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。ドラマ、映画、舞台などで活躍中。

INFORMATION

映画『いちばん逢いたいひと』(2月24日公開)
https://www.ichi-ai.com/