腸内細菌には面白い話があって、腸の中でただ食物を分解するのに役だっているだけでなく、人間の精神状態もふくめた臓器間のコミュニケーションにも役立っている可能性があるんです。
堤 えっ、臓器同士もコミュニケーションを取るんですか?
山極 ええ。腸内細菌叢はエネルギー代謝や免疫、情動にかかわる中枢神経にも影響を与えると言われていて、成人のもつ腸内細菌は約100兆個で総重量1.5kgくらい、総遺伝子数は300万個を超えます。人間の遺伝子の総数は2万1000個くらいですから、いかに膨大な数かがわかると思います。
そんな腸内細菌が体を守ってくれているわけですが、堤さんはお腹の病気になったことを書いてましたね。
堤 はい。私若い時にアメリカに憧れて留学したので、早く手軽でいつでもどこでも手に入るアメリカ的食生活も含めてカッコいいと思っていたんでしょうね。でもそういう食生活を続けていたら、消化器系に深刻な問題が出てしまったんです。日本の病院で「総理と同じ難病、一生治りません」と宣告され、薬やらサプリやら奇跡の何とかジュースやら沢山試したけど駄目。病院からはNGの食べ物リストを渡されるし、最後は大腸摘出する人もいると言われて……すっかり怖くなって落ち込んでいました。
そんな時ある中国医学の先生から「腸と土壌は同じ。不健康な土にいくら良い種を蒔いても育たない、まずは腸内微生物を本来の姿に戻しなさい。すべてはつながっているんだから」といった話をされて、いつのまにか臓器をモノ扱いしていたことを猛省したんです。
根本的に考え方を変えて、その先生のもとで腸内細菌を蘇生させる治療をしたところ、なんと3ヶ月で症状が消えたんですよ。本当に驚きました。
同じように京都の子ゴリラも…
山極 おっしゃるとおり、すべて繋がっているんですよね。腸内細菌叢は、国によっても、土地によっても、みんな違う。母親の腸内細菌が自然出産で膣から出てくる時に受け継がれて、それが最初の赤ん坊の腸内細菌になるんです。生まれて1年以内に、抗生物質を使って腸内細菌を一掃してしまうと、太りやすくなるとも言われていますね。
面白い話があって、ガボン共和国の調査地でゴリラの糞から、新種のバクテリア、細菌が発見されたんです。ニシローランドゴリラだったんですが、新たに見つけたバクテリアを京都市動物園のゴリラの子も持っていた。つまり、都市動物園のゴリラはみんな動物園生まれですが、アフリカ原産の母ゴリラから腸内細菌を受け継いでいた。
堤 じゃあ、今京都のゴリラの子たちを守っているのはまさかの……。