僕らの小さい頃はよくミミズを獲ってから釣りに行ったものですが、今やアスファルトと化学肥料でミミズはほとんど消え、ミミズが大好物のモグラも見なくなりました。
いうなれば地球を根底で支えてくれていたミミズという分解者がいなくなれば、土壌は死んでしまう。だから、新海さんはミミズを反乱させたんですよ。無論あの作品は震災をテーマにした作品ですが、私の解釈ではそんな自然観も込められているように感じました。
堤 面白い見方ですね、ミミズの反乱、まさに私達人間にとってのウェイクアップコールのような……。そうやってミミズもモグラも元気に生息するような環境、有機よりさらに一歩進んだ、本来の土の循環を取り戻すリジェネラティブ農業(環境再生型農業)の動きが今世界各地で広がっていて、取材してみたらとても面白かったんです。
例えば、アメリカで見た、「カバークロップ(被膜植物)」です。大豆やトウモロコシを収穫した後、土壌有機物を増やしたり畑の表面保護のために別な植物を植える。多様性を保てるし、炭素を土に閉じ込めて温室効果ガス削減にもなる。堆肥になるからミミズも戻ってくるんですよ。モノカルチャーで失われた多様性を蘇らせ地域経済も活性化させる、ここでのキーワードは「土壌」です。日本にも昔からありますよね?
山極 そうですね。東北をはじめ、もともと日本では自然農法も盛んで、土壌をきちんと作って、自然の恵みをしっかり捕まえて、作物をつくるってことに精を出している人が沢山いました。自然の循環にそって作物を育て、食べ物を自然からいただき、それをシェアするという農の原点に日本は立ち返るべきだと思います。
日本が持っている優れた農の知恵
堤 考えたら私達日本人は、農の原点を知っている民族ですものね。栃木県民間稲作研究所の故・稲葉光國さんに、〈本当の稲作〉とは単に農薬や化学肥料を使わない事じゃない、田んぼの無数の生き物たちの力を借りる事なんだと言われた時、胸が熱くなったのを覚えています。稲葉さんが開発した、農薬を使わず生態系の力で雑草を抑える技術は、豊岡市のコウノトリと共生する水田再生事業やいすみ市の100%有機米給食を成功させました。こういう優れた農の知恵が、日本中にあった事に感激しましたね。
今仰られた自然農法でいえば、「大地といのちの会」を創った吉田俊道さんからも、有機野菜は虫食いだらけのイメージだろうけど、肥沃な土壌で育った野菜は生命力が強くて虫が寄ってこないと教えてもらい、これも目から鱗でしたね。
山極 生命というのは大きな生態系のなかでつながり、互いに連絡を取り合っているから、本来の循環に戻すことがすごく大切なんですね。