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切除する人も多いあの臓器も重要だった

山極 アフリカ由来の菌が京都の子ゴリラたちもしっかりと守っている(笑)。余談だけど、盲腸(虫垂)ってあるじゃないですか。昔は、要らないから取りましょう、盲腸炎になったら困るからって、切除する人が多かったんですが、あれはものすごく重要な臓器。抗生物質などで腸内細菌を洗い流したときに、腸内細菌が逃げ込む場所だったんです。盲腸は抗生物質の作用を受けないので、腸内細菌が洗い流されても、残った細菌がどんどん増えて、新たな腸内細菌叢をつくることができる。

 そんなに大事な臓器だったんですか! 実は今だから告白しますが、さっきお話しした、お腹の病気で苦しんでいた時期に、「こんなに苦しいならいっそ切ってしまいたい」とまで思い詰めてたんですが(笑)、とんでもなく西洋的で偏った考え方だったんですね。

山極 人間の体はいろいろなものが複雑に相互作用し合いながら形作られているから、西洋医学のように悪い部分を害悪とみなして切除するとか、やっつける薬を使うという発想だけでは捉えきれない深さがあるんですね。

プロフィール

 

堤未果(つつみ・みか)

国際ジャーナリスト。東京都生まれ。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒、ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連、米国野村證券などを経て現職。米国と日本を中心に政治、経済、医療、教育、農政、エネルギー、公共政策など、公文書と現場取材に基づく幅広い調査報道と各種メディアでの発信を続ける。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で黒田清・日本ジャーナリスト会議新人賞、『ルポ 貧困大国アメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞を受賞。『政府は必ず嘘をつく』『日本が売られる』『デジタル・ファシズム』など著書多数。

 

山極寿一(やまぎわ・じゅいち)

1952年、東京都生まれ。霊長類学・人類学者。京都大学大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学。理学博士。ルワンダ・カリソケ研究センター客員研究員、京都大学大学院理学研究科教授などを経て、2014年から2020年まで京都大学総長を務めた。国立大学協会会長、日本学術会議会長などを歴任し、現在は総合地球環境学研究所所長を務める。ゴリラ研究の世界的権威であるとともに、日本の学術界を牽引する存在でもある。2021年、第31回南方熊楠賞を受賞。著書に『暴力はどこからきたか』『「サル化」する人間社会』『ゴリラからの警告』『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』など。